トラ保護基金|絶滅の危機からトラを守るために
トラの危機
トラPanthera tigrisは、20世紀初頭には、東トルコからオホーツク海に至るまで、アジアに広く分布していました。熱帯性落葉樹林からシベリアのカバノキ林、川と海が出会うマングローブ林、ヒマラヤ山麓の深い草原というように多様な環境に適応してきたのです。
しかし、その広大な分布も現在では見る影もありません(分布図参照)。また、20世紀初頭には10万頭といわれたトラの数も3,400頭から5,000頭に激減しています(最新の個体数推定の結果などから、さらに少ないとされる可能性もあります)。この間、9つのうち3つの亜種(別種とまではいえないものの、お互いの間で相当の変異が見られる、種の地域的グループ)も失ってしまいました。
国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストによると、現状のままでは、トラは今後の100年間で20%の確率で絶滅してしまうと予測されています。
人間の土地利用による生息地破壊
現在トラの危機をもたらしている脅威のひとつは、人間の土地利用による生息地破壊です。
トラ本来の生息地である森林が、水田や油やし(オイル・パーム)プランテーションなどの農地、入植者の集落、金属や石炭の採鉱場に転換され、あるいは道路、鉄道、パイプラインなどによってズタズタに分断されています。特に第二次世界大戦後、かつてのトラの生息域はトラが使える場所と人間に改変されたりして使えない場所とのつぎはぎ(パッチワーク)状態になっていきました。
トラは狭い森林パッチに押し込められ、さらにそのパッチは集落と放牧された家畜に取り囲まれました。林内に過剰な燃料木伐採の手が入り、大量の家畜が放牧されています。その家畜を襲ったトラは村人の怒りを買い、「害獣」として銃や毒によって違法に殺されてしまいます(20世紀には、ロシアや中国で大量のトラが報奨金付の害獣として合法的に大量殺戮されました)。
商業目的の密猟
トラの危機をもたらす脅威のもうひとつは、商業目的の密猟です。
密猟の目的は、毛皮や漢方薬の原材料にする骨です。虎骨入りの漢方薬の主な生産国は中国と韓国ですが、国際的非難の中、両国でも現在は虎骨入りの漢方薬の販売が禁止されるに至っています。しかし、中国は国内販売解禁の機会をうかがっており、虎骨に対する需要には根深いものがあります。虎骨の違法取引事例は世界各地で後を断ちません。日本でも以前は中国などから輸入した虎骨入り漢方薬を合法的に販売していましたが、2000年4月から禁止しています。(歴史的にはインド植民地時代にイギリス政府の役人とそれに追随するインドの地方有力者がトラのスポーツ・ハンティングに興じ、膨大な数のトラが殺されたことがよく知られています。)
獲物となるシカやイノシシの過剰な狩猟・密猟
トラの危機をもたらす原因のもうひとつは、トラの獲物となるシカやイノシシの過剰な狩猟・密猟です。トラの生息地の周辺に住む村人が生活のために行うものが多くを占めます。
トラの保全のためになされるべきこと
トラの生息地である森林パッチの環境悪化防止とその間の「渡り廊下」=コリドー確保
トラの保全のためになされるべきことのひとつは、生息地の確保です。
繁殖したトラを新天地に送り出している生息条件のよい森林パッチを中心に、トラが生息するできるだけ多くの森林パッチで環境悪化を防止することが必要です。さらに、森林パッチが完全に切り離されないよう、森林パッチ間を「渡り廊下」のように行き来するための生息地を確保することが必要です。このような帯状の生息地(多くは森林)を、生物学的回廊=コリドーと呼んでいます。トラの「コリドー」としてもっとも重要なものは、トラが長年移動に使い続けてきた自然の森です。多少細長くて人の占拠する土地を縫うように伸びるような形でも、完全につながってはいない森が「飛び石」状に続いている状態でも、トラの「渡り廊下=コリドー」の役割を果たす可能性があります。ただし、餌となる動物がある程度豊かであることや人の活動による妨げが少ないことが条件です。
このような生息地確保は、保護区の中だけで達成されることはめったにありません。保護区は、広さや配置のあり方が十分といえないことが多いためです。トラを長期にわたって存続させるだけの生息地確保は、もっと広大な地域を対象に、繁殖が行われたり分散してきた若トラを迎え入れたりする森林パッチ(保護区はこのような生息地の一部を囲んで指定されていることが多い)や移動に使われる生息地=コリドーの配置と、人間が農地や集落として使う土地の配置とを調整することで初めて可能となります。長期の取組みが必要な対策ですが、これに失敗すればトラが長期にわたって生き延びる道は絶えることになります。
トラとその餌動物の密猟・違法取引の撲滅
トラの保全のためになされるべきことのもうひとつは、トラとその餌動物の密猟・違法取引の撲滅です。
密猟に対しては、短期的・緊急的な対応が必要です。トラの生息地が未だ残されていても、短期に多くのトラが殺され、個体群(地域的なグループ)を支えられない状態になったとき、地域的な絶滅が起きます。
このような事態を避けるためには、生息地の現場における密猟・違法取引の取締りが徹底されるよう早急に具体的対策がとられる必要があります。また、虎骨や毛皮に対する消費需要をなくしていくために、すべての国が足並みをそろえる必要があります。そのために、ワシントン条約(CITES)(⇒野生生物取引に関する調査研究)の実施のあり方が重要になります。











