ネパール、「密猟者の天国」に

Deepesh Shrestha(AFP) 2009年11月7日

カトマンズ---ネパールの森林管理人Narendra Man Babu Pradhan氏は最前線で密猟者と戦っているが、最近、角を切り取られ怪我をしているサイを見つけたときのことを思い出すと、顔をしかめた。
「公園内の湖の近くで、頭に銃弾を撃ち込まれたオスのサイを見つけました。ひどい光景でした」と、Pradhan氏は振り返る。その動物のことを教えてくれたのは、ツアーガイドたちだった。
「密猟者はサイを絶命させずに角切り取っていったのです。サイはひどい痛みを感じているようでした」と、ネパール南西部にあるチトワン国立公園の管理人長は語った。この公園はUNESCOの世界遺産にも登録されており、海外からの観光客にも人気がある。
Pradhan氏にとっても、20年にわたる野生動物との経験の中で最悪の状況だったという。サイを助けるためにできることはなんでもしたが、2週間たたずに死んでしまった。

自然保護関係者によると、ネパールにおける密猟は悪化の一途をたどっている。また、野生動物の生息国であるインドと主な消費国である中国の間にあるため、動物の身体部位の違法取引の中心になりつつあるという。
国境沿いの不十分な監視、近隣諸国の協力態勢の欠如、ネパールの政治不安といった条件が揃うと、銃と暗黒街のコネクションを持った男たちが優位に立つという結果になるのである。

「トラがいなくなったことと、皮や骨、それにサイの角が押収されていることは、密猟や違法取引の増加を示しています」と、ネパールで国立公園と野生生物保護を担当する省庁のスポークスマンであるShiva Raj Bhatta氏はAFPに話した。
「我が国の野生生物は絶滅の危機に瀕しています。私たちの考えでは、ネパールは野生生物取引の国際拠点として急速に発展しつつあり、密猟者の天国になろうとしているのです」
チトワン公園では、過去18カ月の間に24頭のサイが失われた。そのうち17頭は、密猟者に殺されたことがわかっている。

アジアの大きなネコ科にとっても数字は楽しいものではない。
今年新しく実施されたトラの頭数調査によると、ネパールの国立公園には121頭の成獣のトラがいる。ネパール南西部にある2つの公園では、65頭いたトラが26頭に減っていたが、これは60%の減少率である。

10月末に開かれたトラ保護フォーラムにビデオメッセージを寄せた世界銀行総裁のRobert Zoellick氏は、取引業者や密猟者のほうが、政策決定者や自然保護関係者よりもうまく組織化されていると発言した。
また、「現時点において、アジア全体における野生生物の違法取引は(毎年)100億ドル以上と見積もられています。これは、兵器や麻薬密輸に次ぐ規模です」とも述べた。

トラの個体数が少しずつ減り続けているインドの専門家たちによると、インド-ネパール間の国境が、インドから中国国内の大市場に向かう密輸品の主なルートになっているという。
密猟者たちは森林に住む貧しい人々に賄賂を渡し、密林の道案内をさせている。
ネパールの問題の一つは、最近の政治混乱により密輸業者たちが事業拡大のチャンスを得てしまったことにある、とBhatta氏は説明した。

10年にわたって毛沢東主義派と政府軍の間で繰り広げられたネパールの内戦は、2006年に、国連が調停した和平協定を結んで終結した。
それ以来、この国には激動の時代が訪れた。極左勢力が歴史的な選挙に勝利したことにより240年間続いた王制が廃止され、5月の政府崩壊の前にネパールは世俗国家であるとの宣言が出された。
「和平協定以前には公園の中にも外にも軍隊が配備されていました。密猟者にとって心理的な抑止力があったのです」と、Bhatta氏はいう。
「今では、軍隊の居場所は公園内の兵舎に限られています」
これまでに、トラやヒョウの部位、サイの角、カワウソの皮、生け捕りにされた鳥とカメがネパールを経由したことがわかっている。
サイの角は、中国では媚薬として高い評価を得ており、アラブ諸国では短剣の柄を作るために使われる。
トラは、アジアでは巨額な取引の対象になる。体の部位は伝統薬や媚薬の原料になるし、皮は家具やインテリアに利用されるからだ。

野生生物取引の監視ネットワークTRAFFIC-IndiaのSamir Sinha局長は、動物の部位の密輸が数10億ドル規模のビジネスに成長したという点についてZoellick氏に同意する。
「野生生物の違法取引はいまや国境を越えた犯罪であり、警戒すべきスピードで成長していることを示すあらゆる兆候が見られます」と、Sinha氏はAFPに明かした。「各国が互いに協力し合い、定期的に情報や知識を分かち合わない限り、密売業者との戦いに勝つのは難しいでしょう」
トラの皮1枚は地元の市場では最大およそ1000ドル(およそ9万円:1ドル=90.44円、2009年12月20日現在)の値がつくが、国際市場では1万ドル(90万円)以上になる。
サイの角1本は、専門家によると、国際的なブラックマーケットでは1万4千ドル(およそ126万円)もの値がつくとのことである。

ネパールで違法取引を監視する野生生物保護グループ(Wildlife Conservation Nepal)のPrasanna Yonzon氏は、インドや中国との国境が適切に警備されていないネパールは、野生生物の密売業者にとって「理想的な条件」を備えていると危惧する。
「ネパールは消費の盛んな市場であるとはいえず、私たちがその外側の市場をコントロールすることはできません」と、Yonzon氏はいう。Yonzon氏のグループは、おとり調査により、過去4年間に100人以上の密猟者や密輸業者を当局が検挙する手助けをしてきた。
「大きな市場は中国や他のアジア諸国にあります。私たちは、それらの国の消費者たちに野生生物の部位を密輸するための便利なルートとして利用されているにすぎないのです」
(翻訳協力 木田直子)

【JTEFコメント】
野生生物犯罪は今や組織化された密猟者によって行われ、ドラッグに次ぐマフィアの資金元になっています。国境での取締が甘いため容易に密輸品が流れます。密輸品の通り道となっている中継国の取締を強化することはとても重要ですが、得てして難しいものです。その理由として、厳しい取締りを徹底することが政治的な事情で妨げられていたり、自然条件の厳しさやアクセスの悪さから監視が行き届かないことなどがあげられます。

ネパールは、生息国=インド、消費国=中国の間の野生生物違法取引の主要中継国です。ネパール、インド、中国が捜査協力を強化し、同時に消費国で虎骨や毛皮の需要をなくすことが重要です。