密猟者、寅年にひと儲けしようと目論む
ラジャスタン州ランタンボール: インドの野生のトラはその生存のために約12億のインド国民を相手に闘っている。さらに、自然保護関係者は新たな脅威を警告している――中国の新年だ。
2月14日に中国暦の寅年を迎えるにあたり、インドのトラの部位への違法取引が一層増加するだろうと懸念されている。中国の漢方薬に使われるトラの部位への需要が、インドのトラの減少の一因なのだ。
イギリスのNGO、EIAの報告によると、寅年には中国の誰もがトラの皮を欲しがるため、中国のトラ皮業者が高利益を見込んでいるという。野生のトラが少ない上に2010年が寅年であることに乗じて、取引業者がひと儲けしようと目論んでいると報告している。
トラの身体部位取引を根絶する努力が不十分であると、中国政府は自然保護団体から批判されているが、インドの環境相、ジェイラム・ラメシュ氏は、寅年はインドのトラへの大きな脅威という懸念を公然と発表した。8月には、トラの部位取引の撲滅に協力するよう中国政府に依頼している。
1973年に当時のインディラ・ガンジー首相がプロジェクト・タイガーを開始して以来、トラの個体数は1970年代初期の1800頭から1989年の4000頭になるまで着実に増え続けた。
ところが、中国のトラの大規模な減少により、中国の漢方薬メーカーはインドに矛先を向けてきたと、トラの保護関係者であり、WPSI(Wildlife Protection Society of India インド野生生物保護協会) の創始者であるベリンダ・ライト氏は指摘する。
「1990年代初期以降は、壮絶な闘いでした。中国におけるトラの部位への大規模な需要がインドのトラの減少を招いたのです」
トラの生息地に隣接する村は昔から密猟で生計を立ててきたが、取引業者はそれを利用した。大都市のバイヤーから密猟に支払われる多額の報酬が村人を引きつける。村の女たちが運び屋になることが多く、公的交通機関を利用してトラの部位をデリーのような大都市の仲介人に渡す。そこからネパールやビルマなどの従来の貿易ルートを通って中国に密輸入される。漢方薬にはトラの骨、ペニス、精巣、ひげ、眼球、皮膚組織、血液などが使われる。
ラジャスタン州ランタンボールトラ保護区では、2002年から2004年の間に22頭もトラが密猟されるという危機を経験した。40人あまりの密猟者が逮捕され、起訴された。その地方機関であるタイガー・ウォッチは、公園の巡回だけでは不十分だと考え、地域密猟者のために、教育や医療、就業機会の改善プログラムを開始した。若者に密猟をしないよう説得する教育プログラムも行った。
ランタンボールでホテルを経営し、保護関係者でもあるガバダン・ラトール氏によると、密猟村への社会的、経済発展プログラムにより、村民の福利の向上やトラの保護が改善された。
「この2年間密猟がなくなったため、ランタンボール国立公園内のトラの個体数は大幅に増加した」と報告している。
しかし、問題は密猟だけではない。インド人口の多さがトラの生息地の破壊や分断化を招いている。36年前プロジェクト・タイガーが始動して以来、インド人口は倍増した。トラの生息地の近辺住民は、世界でもっとも貧困な人々である。トラやトラの獲物に必要な自然資源を略奪して生計を立てるしか術がないのだ。
インド中部の貧困州においてトラの個体数がもっとも減っていることが調査でわかっている。しかもその地域は昔からトラが最も多く生息していたところである。
マンモハン・シン首相率いるインド政府は、トラの保存を主要課題に取り上げ、そのための資金援助を増加した。しかし、インドの非効率な政治体制により、政府機関によるトラの保護管理は困難をきたしている。森林や公園管理を担う州政府には、トラ個体数を適切に管理する政治的意思も技量も欠けていると、保護関係者は指摘する。
都市で考案されたプログラムは、トラの生息する森林内の的確な行政にはとても及ぶものではない。
「インド中のどこの公園管理局も信頼できるところはない。もっと責任を持つべきだ」とラトール氏は苦言を呈している。
野生のトラの数が10年間で60パーセント減少し、1411頭しかいないという昨年の調査結果はインドに衝撃を与えた。保護関係者の中にはその数さえ多めであると考え、900頭以下と推定するものもいる。
そして、寅年はさらにその数を減少させる脅威なのだ。
(翻訳協力 石原洋子)
【JTEFのコメント】
2010年は寅年だからトラを守ろう、と保護の機運が高まるのが普通だと思う方が多いと思いますが、強いトラをラッキーチャームに……と考える人たちもいるということです。
グローバルにトラの保護を考えなければトラは守れないこと、そしてローカルには地元住民にトラがいる意義を説き、教育や就業チャンスを与える活動が重要です。