中国のトラ・ファームがトラの身体部位への強い欲望を満たす

ニューヨークタイムス アンドリュー・ジェイコブ記 2010年2月12日

 中国、桂林 日曜日に始まる群衆が歓喜する寅年は、森林を自由に歩き回る、世界で減少しつつある推計3200頭のトラにとってひどい年となりうる。

 国内に20頭足らずしかいない中国のトラは、密猟者が数発銃を撃てば絶滅してしまう数で、また、インドの密猟者はトラの個体数をどんどん減らしており、世界で最大1400頭余りというこの数は、10年前のおよそ半分で20世紀初頭にインドを歩き回っていた10万頭に比べたらあまりにも少ない。

 生息地の減少は相変わらずトラを脅かしているが、アジア最大の捕食動物であるトラにとっての最大の脅威は、中国のトラの身体部位に対する欲求であると、自然保護関係者は言う。1993年に政府が取引を禁止したにもかかわらず、伝統的にその治癒力と催淫薬としての特性を重んじられている虎骨と、にわか成金の間で「戦利品」と珍重されるトラ毛皮への需要は堅調である。

 取引を調査している人々は、毛皮は2万ドルで売れて、手足(訳注:手足の骨)は一本で1000ドルもの値がつき、トラの死体が今ほど価値があった時代はないと言う。インド政府は2009年には前年の2倍となる88頭の死体が見つかり、密猟者によるトラの殺害が急速に増加していると先月発表した。この数は保護区域で見つかった死体と、国境で没収されたトラの部位を元に出された頭数のため、自然保護関係者は実際の数はこれを大きく上回ると言う。

 インド野生生物保護協会(WPSI)の事務局長べリンダ・ライト氏は、「トラの部位に対する需要は中国から発生しており、中国がその態度を改めない限り地球上にトラの未来はない。」と述べた。

 自然保護関係者は、インドは国内にある37のトラ保護区での保護活動において最大限の任務を果たすべきだが、中国政府は国内の違法なトラの部位の市場を鎮圧するために出来ることすべてをやってはいないと主張する。売買反対の努力は無計画だと専門家は言う。中国は伝統的な漢方薬でのトラの部位の使用を禁止しているが、虎骨酒の販売は見逃されている。これは、流れ作業的に何千頭もの動物を飼育する中国のトラ・ファームが付け込んできたグレーゾーンだ。

 もし桂林の雄森熊虎山庄のトラに何が起こるか不可思議に思ったら、「虎骨」が詰まった酒が入った虎の形をしたボトルの並ぶ土産物屋に行けばある程度は明らかになるだろう。6年蒸留物で132ドルのこの酒は、桂林周辺とその周りで堂々と売られている。

「この酒は効果てきめんだよ。」と桂林の酒屋の店主、チャン・ハンチュは言った。彼は、1日お猪口一杯の虎骨酒を飲むと、関節のこわばりが軽減し、リュウマチを治し、そして精力が増すと説明した。寅年が近付くにつれ、需要は急増していると彼は言う。

 国家林業局の経済援助を得て1993年に開始され、雄森は中国で一番規模の大きいトラ繁殖施設である。1500頭のうち何頭かは樹木のない、フェンスで囲まれた場所をうろうろと歩き回り、そのほかは狭いケージに詰め込まれてイライラと行ったり来たりしている。

 施設はかなり気が滅入る場所である。トラに加え、公園には何百頭ものオマキザルが檻の中で大騒ぎし、特効薬の原料となるか、もしくは動物実験に使われる運命を待っている。また、公園には300頭のヒグマがおり、視力が改善すると言われている栄養補助食品の主な材料としてつかわれる胆汁を抜かれている。

 公園に12ドルの入場料を払った客はトラの火の輪くぐりや玉乗りの豪華絢爛なショーでもてなされ、観客の人数が多い場合は、従業員が牛をトラのそばに置く。想像がつくだろうが結果はぞっとするようなものである。

 2年前に大量の批判的な報道がなされるまで、雄森は施設内のレストランで「大王肉」として堂々とトラ肉のステーキを売っていた。最近では、公園はより控えめなやり方をしている。「虎」という言葉はもはや虎骨酒のパッケージに書かれておらず、代わりに「珍しい動物の骨」と書かれているが、これらの酒の主要な材料は虎骨のままだと言う。

 施設の中心にある建物では、政府のナンバープレートを付けたものもある多くの車が列をなし、最近の目撃ではある車がトランクに雄森の強壮酒を詰めて走り去っていた。建物内部では、「野生生物の保護は全市民の義務である」とうたっている。

 雄森の醸造所の電話に出た女性は、オーナーのチョウ・ウェイセンはコメントできないが、毎年醸造される20万本の酒の材料はトラではないと主張した。

 虎骨酒の販売を見逃していることに加え、中国政府はこのようなトラ・ファームを存在させたままにしていることがトラの部位の市場をあおっていると批評家は言う。国家林業局は昨年12月に、トラの取引禁止を支持すると改めて表明したが、毎年規制は再審議され、政治的に力のある20のトラ・ファームの所有者に希望を与えている。

 もし禁止が解除されれば、ファーム育ちのトラの取引は、密猟されたトラの隠れ蓑となるだけだと批評家は言う。密猟されたトラは、捕獲がより安く済み、多くの中国人が檻の中で育てられたトラより野生のトラの部位のほうが治癒力が高いと信じているため、より高値で売られる。

 森林局の職員はすべての職員は休職中で連絡が取れないと答えた。

 ロンドンの環境NGO、EIAでトラ保護キャンペーンを展開するデビー・バンクス氏は、中国の国際的なトラの取引禁止に協力するという決議は、中国国内での販売に対するあいまいな立場により実効性が弱められていると述べた。中国政府は需要を刺激、永続化させており、これこそが我々が面している本当の問題だと彼女は述べた。

 残忍なニュースにも関わらず、この1年は関心を高めるのに良いチャンスだと自然保護関係者は言う。寅年のこの大騒ぎは多くの国、特にトラの絶滅を助長しているという批判に敏感な中国の注目を集めた。9月には、ロシアと世界銀行が、トラについてのサミット会議を開き、批評家は急速に減少しているトラの個体数を回復させる確固とした計画が決定されることを期待している。世界の野生生物の取引を監視するTRAFFICアジアプログラム責任者の、ジェームス・コンプトンは、一番重要なステップは、中国とそのほかの国がトラの部位を違法な薬として禁止することだと考えている。「大手の取引業者をつぶすのは難しいことではない。」と彼は言う。インターポールや世界税関機構のような組織もこの戦いに参加するべきだと付け加えた。

 コンプトン氏は1998年の寅年のことを思い出さずにはいられない。その時も、国際的なコミュニティーを先導するのにその機会を使おうという、似たような議論がなされた。彼はまた、その際に作られたポスターをはっきりと覚えている。そのポスターにはこう書かれていた。「最後の5000頭のトラを救おう」
(翻訳協力 瀧口暁子)

【JTEFのコメント】
 先日、中国の黒龍江省にあるトラ繁殖施設を訪れた人から、そこで販売されている虎骨酒の写真をもらいました。中国には繁殖施設に5000頭ものトラがいると言われています。
 野生にいるからこそ、トラのいる多様性豊かな自然が守られ、私たち人間も恩恵を受けていることにどうして気付かないのでしょうか。
 ワシントン条約締約国会議では各国からトラ・ファームへの批判が強く、条約を所管する部署とトラ・ファームの永続化を望む所管部署とのあつれきもあることがこの記事からうかがわれます。