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「絶滅危惧種に、もっと法律の保護の手を」――種の保存法改正問題

種の保存法一部改正法について

2013年4月19日「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「種の保存法改正・政府案」)が閣議決定されました。
 種の保存法改正・政府案は、早ければ5月の半ばに今国会(第183回常会)へ上程されると予想されます。
トラ・ゾウ保護基金は他の自然保護団体と協力し、種の保存法抜本改正を実現すべく、国会へのはたらきかけを行っていきます。

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)とは?

 絶滅のおそれのある種の保存を図ることにより、人の自然環境を保全し現在及び将来の国民の健康で文化的な生活を確保することを目的とする法律です(1992年公布、1993年施行)。
 種の保存法には2つの柱があります。
・国内希少種の保存
日本国内に生息する絶滅のおそれのある種(国内希少種)の捕獲・譲渡しを規制し、生息地を保護し、保護増殖をはかること。
・国際希少種の国内流通管理
国際的に協力して保存をはかることとされている絶滅のおそれのある種(国際希少種)=主としてワシントン条約によって国際商業取引が原則的に禁止されている種が、条約上の例外措置として合法的に日本に存在する場合、その国内流通を管理すること

絶滅危惧種の現状は?

・国内希少種
環境省の第四次レッドリストには3,597種もの絶滅危惧種が選定されています。そのうち、種の保存法の国内希少種に指定されて法的な保護が与えられている種は現時点で90種だけです。
・国際希少種
 主としてワシントン条約対象種が指定されています(698種)。ただし、基本的にはワシントン条約対象種のうち附属書Ⅰに掲載され国際商業取引が原則禁止されている種のみが国際希少種に指定されています。

種の保存法改正・政府案の概要

○罰則強化
・登録が必要とされているにもかかわらず、それをせずに個体、器官(象牙など)、加工品(トラの爪のアクセサリーなど)を譲渡す行為等に対する罰則が強化されました。
 ・懲役刑の上限:1年→5年
 ・罰金の上限:100万円→500万円
 ・懲役と罰金のどちらかだったものを、両方科すこともできるようになった。
 ・法人処罰における罰金の上限を1億円に。
・そのほか、販売目的での陳列、虚偽登録・登録票再交付についても罰則が強化されました(1年以下の懲役または100万円以下の罰金に)。

○個体等の販売目的でする広告の規制導入
・これまでは、販売目的の陳列が規制されていましたが、広告についても陳列と同様の規制がされることになりました。
○個体等を譲渡するときに必要とされる登録手続の改正
・飼っていたペットのリクガメが死んだので剥製にしたというように、登録以降、登録のカテゴリーに変更があった場合(上記の例では、個体→個体の加工品)、変更登録をするか、登録の際に交付された登録票を返納しなければならないことされました。
そのほか、登録個体等を持っている人に住所等の変更があった場合の届出義務などが定められました。


○そのほかの改正点
・目的規定で「生物多様性の確保」に言及
・国の責務規定に「科学的知見の充実を図る」ことを追加
・国の責務として最新の科学的知見を踏まえつつ、教育活動、広報活動等を通じて、種の保存に関して国民の理解を深めることを規定

種の保存法改正・政府案は、評価できるか?

種の保存法改正・政府案には、基本的なところで大きな問題があります。

国内希少種の保存について
・国内希少種の指定が進まない根本問題(種指定手続における透明性・科学的知見反映・市民参加が保障されていないこと)にまったくメスがいれられていない。
・環境省は、法律改正とは別に国内希少種を2020年をめどに300種増やす方針という報道がされました。しかし、指定数を増やす旨宣言しても、その実施を担保する手続・仕組みが伴わなければ実効性はない。
・現行法上、種を指定した後にそれぞれの指定種を回復させ、絶滅のおそれを解消するための施策を科学的・計画的に展開するための手続・仕組みが欠けていた。この点にもまったくメスがいれられていない。

国際希少種の国内流通管理について
・罰則の強化そのものは評価できるものの、それだけでは虚偽登録(ロンダリング)などの違反行為は十分抑止できない。
  登録する際の審査を厳格化して希少種が虚偽登録されないよう万全を期すこと、その後のトレイサビリティーを改善して登録票の付け替えを防止することが、厳しい罰則と両輪となってはじめて効果が出る。
・今回の登録手続の改正は、あまりにピンポイント過ぎ、制度の全体的な弱さにメスが入れられていない。(その効果についても疑問がある。)

種の保存法の抜本的改正に向けて

種の保存法改正・政府案が閣議決定された2013年4月19日、トラ・ゾウ保護基金はこの問題に取り組むNGOと共同して、種の保存法の抜本的改正を求める声明を出しました。
トラ・ゾウ保護基金の他に声明に参加した団体は次のとおりです。
・WWFジャパン
・日本自然保護協会
・トラフィック イーストアジア ジャパン
・日本野鳥の会
・イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク
・生物多様性保全・法制度ネットワーク

NGO声明の中で、改正が提言されている項目は以下のとおりです。

【国内希少種の保存について】
【1】種の保存の必要性が特に高いものについては、政府が指定の義務を負うものとすること

本邦に生息または生育する絶滅のおそれのある野生動植物種のうち保全の必要性が特に高いものは「第一種国内希少野生動植物種」として必要的指定とする(それ以外の指定種は「第二種国内希少野生動植物種」として、現行法どおり任意指定)。指定の理由がなくなったときは指定を解除又は変更するものとする。

【2】種の指定の仕組みを改善するために専門家による科学委員会を設置すること

 政令指定種選定の基準・方法・プロセスが、現行制度では不透明である。公正性、透明性を持った常設の科学委員会を別途設置し、指定候補リストを科学的知見に基づき、また国民からの情報を十分に反映して作成する。これにより、種指定の手続きの透明化を図るとともに、指定を促進することができる。

【3】国民による種の指定提案制度を設けること

 京都府、徳島県、奈良県、島根県は、府民・県民からの種の指定提案制度を設けている。「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例(平成19年10月16日)」は、第10条で「府民は、規則で定めるところにより、理由を付して、指定を行うよう知事に提案することができる。」としている。種の保存法にも同様に国民からの提案制度を設けるべきである。

【4】国内希少種保全のための法定計画制度(回復戦略及び回復行動計画)を創設すること

国内希少種の絶滅の防止と絶滅のおそれが解消された状態への回復を図るため、科学性、市民参加および透明性が確保された戦略的計画制度(回復戦略及び回復行動計画)を創設する必要がある。絶滅のおそれを解消するために必要なこと、それらを進める手順等は種ごとに事情が異なるからである。保護増殖事業や生息地等保護区は、種ごとの回復計画のツールとして位置づけ、積極的に実施、指定が進められるべきである。

【5】生息地等保護区における公共事業(国の機関と地方公共団体が行う行為)に対する規制を不当に緩和しないこと

公共事業が絶滅危惧種に与える脅威が民間の事業に比較して少ないとする理由はない。現行法が定める通知や協議義務だけでは、環境省の意見が無視されるおそれも否定できない。

【国際希少種の国内流通管理について】
【6】個体等の登録手続きを全面的に見直すこと

虚偽登録、登録票の流用、登録実績のある者がそのことを隠れ蓑にして無登録個体の譲渡を行うことを効果的に防止するためには、登録の要件、実施(申請において、登録要件を具備していることを証明するために公的機関が発行又は確認する証明書を提出すること、登録と引き換えにする個体識別とその表示を行なうこと等)、拒否、更新、変更の届出、登録の取消し及び抹消に関する規定を定めること、登録を受けた者を報告徴収及び立入検査の対象に含めることが必要である。
申請事項、登録個体等に生じた変更に関する一部の手続きが今回の改正で対応の見込みであるが、未解決の課題が依然として多い。

【7】特定国際希少野生動植物種の取扱い業者(象牙業者、べっ甲業者)の届出制を登録制とすること

事業者による違反行為を防止するためには罰則の強化だけでなく、営業そのものに十分なペナルティーを科せるようにする必要がある。そのためには、事業を登録制とし、登録の拒否、更新、登録の取消し等の規定を設ける必要がある。また、個々に登録される器官(全形を保持した牙、甲羅)に関する違反についても、事業者としてのペナルティーの対象とすべきである。さらに、業者の登録簿は公表されるべきである。

【8】交雑個体を譲渡(ゆずりわた)し規制の対象とすること

現行法上、希少野生動植物種間、又は希少野生動植物種及び非該当種間の交雑個体は、譲渡し等の規制対象とならない。ところが、交雑のない個体と交雑個体との識別は、種によっては技術的に困難な面がある。そのため、種の保存法違反事例の圧倒的多数を占める譲渡し等の規制の実効性を確保するためには、交雑個体の譲渡し等も規制の対象とする必要がある。

【9】国際希少野生動植物種の個体等の占有について届出制度を創設すること

登録されない在庫が国内に多数存在し、違法な流通の温床になっているおそれがある。 そこで、登録なく所持されている個体等については、占有を開始してから6カ月以内に、環境大臣に届け出なければならないものとする(ただし、改正法施行日から3年間は、届出を認める)。占有されている個体等を網羅的に把握することにより、非合法的流通の温床を縮小することができる。

【全般について】
【10】海生哺乳類について、法律上の根拠なく種指定の対象から除外しないこと

海洋生態系のキー・スピーシーズとしての海生哺乳類が、省庁間覚書によって国内希少種指定の対象から除外されてきた経緯がある。そのような取扱いが法律の趣旨に反することを改めて明確にするとともに、水産庁が行う資源評価も他の科学的情報とともに活用しつつ、陸生種と区別することなく科学的評価に基づく指定を進めるべきである。

【11】第3条を削除すること

 そもそも、財産権の行使や公共事業の目指す公益実現を無制限に許すならば、種の保存という本法の目的自体が成立しなくなる。種の保存とそれらの権利・公益との調整が必要なことは当然のことであるにもかかわらず、あえてこのような規定を置くということは、種の保存を軽視することを宣言するようなものである。また、個々の規定の厳しい運用を阻害するおそれもある。

【12】保全のために十分な予算措置を担保する

 条文に法制上、財政上および税制上の措置を明記すべきである。我が国の保護増殖事業の予算は米国政府の予算と比較して非常に少ない。生息地等保護区の指定を下支えする措置として、税制上、財政上の優遇措置も検討すべきである。

【13】都道府県の取り組みを努力規定とすること

 地域主権が叫ばれているが、自治体の希少種保全に関する条例の制定は進んでいない。31都道府県で制定され、16府県で未制定となっている(平成23年10月現在、環境省公表資料による)。条文で、都道府県は希少種保全に向けてさらに積極的に取り組むよう求める、より重い責務を規定すべきである。