ブログ:シリーズ・アジアゾウの歩んだ苦難の道と現状 第1回
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2019/07/tusker-square--1021x1024.jpg 1021 1024 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2019/07/tusker-square--1021x1024.jpg現在生き残っているゾウは、分類学上、エレファス属のアジアゾウElephas maximusとロクソドンタ属のアフリカゾウLoxodonta africanaの2種だけである(森林性のマルミミゾウをアフリカゾウと別の種Loxodonta cyclotisだとする考え方もある)。ちなみに、現生の人類=ヒトも、ホモ属のホモ・サピエンスHomo sapiensと呼ばれる1種だけだ。
エレファス属とロクソドンタ属が、マンモス属とともに550万年前に誕生し、その300万年後にホモ属が同じアフリカで誕生して以降の歴史の中で、何種ものゾウ類、人類が生まれ、絶滅していった。その間、世界の各地で、ゾウ類は人類と遭遇し続けた。野尻湖で発掘されたナウマンゾウは、日本で人類と出会ったエレファス属の1種である。しかし、ナウマンゾウがそうであったように、ゾウ類と人類が共に地球上に存在した歴史は、そう遠くない将来、ゾウ類の完全な絶滅によって幕を閉じるかもしれない。アジアゾウは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで、「野生下での絶滅のおそれが非常に高い種(EN)」に選定されている。これから取り上げようとするのは、エレファス属でたった1種、アジアの13か国に点々として生き残ったアジアゾウについてである。
もともとアフリカで生まれたエレファス属がアジアにたどり着いたのは、250万年ほど前だといわれている。その後、現生のアジアゾウの直系の先祖に当たる種が、ヒマラヤ山麓の辺りから、インド亜大陸を通ってスリランカやインドシナ半島を中心とするユーラシア大陸、東南アジアの島々に広がり、25万年くらい前にその種からアジアゾウが進化したと考えられている。
今日のアジアゾウは、南インドのバングラデシュ、ブータン、インド、ネパール、スリランカの5か国、大陸東南アジアのカンボジア、中国(雲南)、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの6か国、そして、赤道東南アジアのインドネシア(スマトラ島、カリマンタン(ボルネオ島))とマレーシア(半島、ボルネオ島)の2カ国に分布している。
この分布範囲自体、かつて西はチグリス・ユーフラテス盆地まで、東北は揚子江を越えるところまで分布していたことを考えれば、ずっと狭くなっている。しかし、この300 – 400年の間に深刻化しているのは、その広がりの中に均等にゾウが生息することができず、しみのように点々とする土地にしがみついて生きるしかなくなりつつあることである。このような分布の仕方だから、13か国に生息という割には、生息地の面積も、ゾウの個体数も少ない。2018年にIUCN/SSCのアジアゾウ専門家グループが、一定程度信頼できるデータを集めて推定したところでは、アジアゾウ全体でおよそ46,000~49,000頭である(調査データの新しさ、精度の高さには、国によって相当ばらつきがあることは断っておかなければならない。)。
今日、1,000頭以上のゾウが生息する国は、南アジアのインド(約27,000)とスリランカ(約6,000)、大陸東南アジアのタイ(約3,100 – 3,300)とミャンマー(2,000 – 4,000)、赤道東南アジアのマレーシア(半島:約1,200 – 1,700、ボルネオ島:約2,000)とインドネシア(スマトラ:約1,700、ボルネオ島:60 – 80)の6か国だけ、1万頭を超えるのはインドだけである。現実を厳しく直視すれば、これらの国が、アジアゾウ存続の最後の砦ということができる。
しかし、ここにあげたどの国でも、アジアゾウは安泰な歳月を過ごしてきたわけではない。それどころか、よく今日まで生き残ってくれたと言いたいほどの辛く、苦しい仕打ちを人間社会から受けてきた。今後のブログポストでは、3つのエリアからそれぞれ、スリランカ、ミャンマー、インドネシアを、そして最後に今日全体の60%が生息するインドのゾウの歩んだ苦難の道と現状についてスケッチしようと思う。それぞれの国で、ゾウが大きなダメージを受けた時期や人間活動の種類には違いもある。しかし、特に注目すべき時期は、アジアが広くヨーロッパ列強によって植民地化された時代の半ば以降およそ300年間と、それに続く第二次世界大戦後のアジア諸国独立・発展期のおよそ70年間の中に納まることになるだろう。
(坂元雅行:トラ・ゾウ保護基金事務局長、IUCN/SSC アジアゾウ専門家グループ メンバー)
参照文献
- Sukumar R., 2011, The story of Asia’s elephants, Marg Foundation, Mumbai
- IUCN/SSC Asian Elephant Specialist Group website https://www.asesg.org/index.php
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