ブログ:シリーズ・日本の象牙市場閉鎖 第4回:採択された市場閉鎖決議の履行を強化する決定の意義と、CoP18がもたらした影響

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■市場閉鎖決議を実施するための決定が求める報告とは?
CITES CoP18で採択された市場閉鎖決議を実施するための決定は、未だ国内象牙市場を閉鎖していない締約国に対し、その国内象牙市場が、密猟又は違法取引の一因とならないことを確実にするために執る措置について報告するよう求めた。この決定を子細に見れば、日本を市場閉鎖に向けて厳しく追い込む内容となっていることがわかる。
非閉鎖国が、この決定に基づく報告の仕方には、2つの異なるアプローチがあり得る。
第1のアプローチは、市場閉鎖を行う旨の政治的宣言を行い、閉鎖に当たっての基本的な方針やロードマップを示すことである。
第2のアプローチは、市場を密猟からも違法取引からも確実に切り離す効果を発揮している自国の執る「措置」について説明し、現に市場が密猟の一因にも違法取引の一因にもなっていないことを証明することである。
多くの国が、第1のアプローチに向けて急速に動き出している。シンガポールおよびイスラエルは2021年からの禁止を決定しており、EU, オーストラリアおよびニュージーランドは禁止の具体的内容について合意形成プロセスにある。特に目覚ましいのは、EUの動きである。このCoP18でアフリカゾウ連合諸国によって日本とともに名指しで閉鎖を求められたEUは、前記のとおりその議題審議の際に規制強化を宣言したが、CoP18閉幕からわずか1か月の2019年10月4日、EC(欧州委員会)の環境総局担当欧州委員(Director General, Environment)が、「象牙取引に関する関係者会議」を開催した。この会議開催に当たり、「象牙取引に関するEU規制のギャップを閉じることを目指して」という資料が配布され、その中で、EU域内=EU加盟国間の象牙取引の規制強化の案等が提案されている。その要点は、楽器と、芸術的、文化的または歴史的観点から特に貴重な物品を狭い例外とし、それ以外の域内取引を禁止するという非常に厳しいものだった。
これに対して、日本は、(現在のスタンスに立つ限り)、現に市場が密猟の一因にも違法取引の一因にもなっていないことの説明責任を負ってでも、第2のアプローチをとるということになるだろう。しかし、これまでのような言いっぱなしでは、すまされない。日本にとって特に致命的なのは、近年、日本のオープンな市場で買い求められた象牙が外国へ頻繁・大量に密輸出され、中国等の税関で続々と押収されているという厳然たる事実である。結局、常設委員会は、CoP19に対し、日本市場が「密猟又は違法取引の一因とならないことを確実にするため」の措置が十分に執られていない、と報告するしかなく、そのうえで日本に市場閉鎖決議を遵守させるための何らかの措置を決定するよう勧告することになるだろう。これを受けたCoP19は、今度こそ、日本を名指しにした具体的な決定を行うことになろう。
日本は、180か国以上が加盟し、3万5000種以上の種の国際取引を管理するCITESから離脱することはできない。それは、現在自国が大量に輸入している多種多様な野生動植物製品の国際市場にアクセスできなくなることを意味するからである。国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退とは全く事情が異なる。留まる以上、条約は遵守しなければならない。その際、その実施に関する締約国会議の決議および決定に則して行動すべきことは当然である。市場閉鎖決議も、今回の決定も、自国も参加したうえで(最終的には納得して)コンセンサス採択されたものであるから、なおさらである。実際、政府は、自国の市場が「決議の対象でない」と言い続けてはいるが、決議を遵守しなくてもよいと公言したことはない。日本は市場閉鎖に向けて厳しく追い詰められたことになる。

■CoP18がもたらした世界の国内象牙市場閉鎖を加速する動き
このように、CoP18は、世界の国内象牙市場閉鎖へと大きな前進をもたらした締約国会議であったと評価できよう。
審議に至る経過および審議の過程を通じ、各国が特に日本市場への関心を飛躍的に高め、今後の日本の動向にこれまでになく大きく注目するようになっていった点も重要である。東・西・中央アフリカ諸国は当然であるが、米国、既に市場を閉鎖した英国やフランス、最近積極的に市場閉鎖へ舵を切ったオーストラリア、イスラエルなどは特に、日本の主体的な翻意に期待を寄せており、今後の動きが注目される。今回日本とともに非閉鎖国として名指しされたEUは閉鎖へと舵を切ることを明らかにし、自ら日本とは一線を画したが、今後は閉鎖国とともに日本のオープンな市場に対して矛先を向ける可能性がある。かつては日本同様、象牙の主要消費国であったアジアの国々は、閉鎖への対応が中途半端なタイを除いて、すべてが合法市場閉鎖を決定または実施中であり、日本政府の奮闘ぶりには冷ややかな態度である。日本の国内象牙市場維持を支持する国は、(もはや絶望的になりつつある)将来的な日本への象牙の合法輸出に望みをかける南部アフリカ諸国のみである。象牙取引をめぐる日本の国際的な孤立は決定的となった。
さらに、CoP18における審議と意思決定が、政府を飛び越えてもたらした影響であるが、特筆に値する出来事があった。28日のCoP18最終日、世界最大のオンライン象牙小売プラットフォームを運営するヤフーによる11月1日からの象牙販売禁止の発表である。日本における象牙のインターネット取引市場は、伝統的な製造業者、小規模に工芸品等を製造する新興の業者、古物商、投機取引を行う者など、多様な業種が相互にビジネス・チャンスを拡大しあうことにより、急成長を遂げてきた。そこに本国在住の中国人をエンド・ユーザーとする落札・購入代行業者も参入し、中国人顧客のために象牙商品を落札・購入、大量に中国へ持ち帰ってきた。ヤフーが運営するオンライン・プラットフォームは、その違法輸出の温床となっていたのである。CITESで国内象牙市場閉鎖決議が採択されて以来、競合する電子商取引事業者の楽天とメルカリが2017年に象牙販売から撤退する一方で、ヤフーは、「ワシントン条約や種の保存法に照らして適法かつ種の保存を脅かすものでない適正な象牙取引について、売り手・買い手が自由に参加できる場を提供することは私たちの責務だと考えています」として、頑なに象牙販売を継続してきた。そのヤフーがCoP18における審議に鑑みて、象牙販売禁止を決めたことの市場への影響は計り知れない。さらに重要なのは、決断の理由である。その記者発表によれば「ネットオークションサービス『ヤフオク!』を通じて、国内にて取引された象牙が、その後外国へ違法に持ち去られ、外国の税関で摘発される事件が複数例報告されたことを確認」したことを「深刻に捉え」た、とされている。ヤフーは、政府が否定し続ける、日本の国内象牙市場が「違法取引の一因」である事実を認めたのである。
(坂元雅行 トラ・ゾウ保護基金事務局長)

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