報告書:象牙密輸業者の入手先―日本の違法な象牙輸出に関する中国判例の分析
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/Chobe-march-backside-1024x924.jpg 1024 924 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/Chobe-march-backside-1024x924.jpg東京 – 2022年11月1日
トラ・ゾウ保護基金(JTEF)は本日、報告書「象牙密輸業者の入手先―日本の違法な象牙輸出に関する中国判例の分析」(英語版“Smugglers’ Source: Japan’s Legal Ivory Market –An Analysis of Chinese Court Decisions of Ivory Illegally Exported from Japan”)を公表した。
何千頭ものゾウが、毎年、象牙を取引に供する目的で殺され続けている。ワシントン条約によって象牙の国際商業取引が1990年以来禁止され、さらに数多くの締約国が自らの国内象牙市場を閉鎖する措置をとる一方(注1)、世界最大の象牙在庫を擁する日本は(注2)、その市場を開いたままである。しかし、合法的な国内象牙市場の存在は、象牙の国際商業取引禁止の実効性と、既に市場を閉鎖した締約国の象牙流入防止のための努力に対する脅威となる。
2022年、JTEFは、中国政府が公開している判例データベースにもとづいて(注3)、日本から中国へ象牙が密輸出された事件に関する判決を検索し、分析した。中国が象牙の国内市場を閉鎖して以降に発生した15の事件を含む、2010年から2019年までに発生した45の事件が把握された。
分析によれば、45件中、10件(23%)には日本人が、少なくとも4件(8%)には、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づいて登録された象牙取引業者が積極的に関与していた。1年5か月越しに3.26トンが密輸出された事件で象牙を供給していた事件も、日本の登録象牙業者が象牙の供給源だった。この業者は、現在も自社サイトでカット・ピース中心に象牙の販売を行っている。別の登録象牙業者は、2件に関与していた。この業者は、東京象牙美術工芸協同組合のメンバーである。1つの事件では、中国人の象牙バイヤーとの間で、カット・ピースを重量にかかわらず固定価格で継続的に取引する契約を交わし、結果、2011年における3か月間で120kgのカット・ピースが取引され、それらはすべて中国へ郵送されていた。この業者も、2019年11月からのヤフーによる自主的販売禁止にもかかわらず、今なおヤフオク!で「象牙風」と騙り、禁止前以上に大量の象牙をより高額で販売している。合法的に登録を受けた業者を含む日本サイドの関与にも助長されて、頻繁に日本市場から象牙が密輸出されている。それが既に国内象牙市場を閉鎖している中国の法執行機関の負担を高め、その努力を損なっていることは明らかである。
日本から中国への象牙密輸出は、日中両国で、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」の定める「重大な犯罪」と位置づけられている(注4)。検討した事件のほぼ半数(47%)は、同条約が「組織的な犯罪集団」の基本的な要件とする3人以上の関与者によって実行されていた。しかも、事件のほぼ70%で犯罪集団内の役割分担が行われ、しばしば代理購入サービスを利用した巧妙な手口が用いられていたこと、事件の半数に古物商や物流会社など商品取引にかかわる者あるいは野生生物犯罪の前科がある者が関与していたこと、事件の65%が金銭的ないし商業的な動機で実行されていたこと等が認められた。このことから、中国の顧客に向けた日本から中国への多くの象牙密輸出は、顕著な組織犯罪性を示しているといえる。組織犯罪者たちが日本の市場を象牙の供給源と見ていることは疑いない。
この結果を踏まえ、トラ・ゾウ保護基金事務局長の坂元雅行は、「11月14日からパナマシティで開催されるワシントン条約第19回締約国会議は、条約決議に明らかに違反する日本の責任を問い、その国内象牙市場を緊急に閉鎖するよう、日本に勧告しなければならない」と指摘した。
了
注1:国内象牙以上閉鎖勧告
2016年のワシントン条約CoP17は、決議10.10「ゾウの取引」をコンセンサスにより改正し、密猟または違法取引に寄与する合法化された国内象牙市場を閉鎖することをすべての国へ勧告した。この勧告と前後して、アメリカ、中国、フランス、イギリス、香港、台湾、シンガポールなど多くの国が市場を閉鎖し、今年の1月にはEUが域内の市場閉鎖に踏み切った。
注2:日本の象牙在庫量
日本に存在する178トンの登録全形牙と、登録業者が報告した66トンのカット・ピースとを含む計244トンの象牙在庫[1]は、アジア地域の象牙在庫289.82トン[2]の84%、全世界の在庫796トン[3]の31%を占める。
注3:「中国裁判例オンライン」 https://wenshu.court.gov.cn/
注4:「国際組織犯罪防止条約」が定める「組織的な犯罪集団」
3人以上の者から成り一定の期間存在する集団が一体となって、金銭的利益その他の物質的利益を得るために、一つ又は二つ以上の「重大な犯罪」を実行するものをいう。象牙密輸は、中国でも、日本でも4年以上の身体的自由をはく奪する刑罰が科されうる犯罪とされており、国際的組織犯罪防止条約の定める「重大な犯罪」 に該当する。条約ついて→ https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty156_7.html
[1] CITES SC74 Doc. 39. Closure Of Domestic Ivory Markets: Report of The Secretariat https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/74/E-SC74-39.pdf
[2] CITES. https://cites.org/eng/prog/terrestrial_fauna/elephants (as declared by 28 February 2021)
[3] 同上