ブログ:破壊された森のコリドーを、アジアゾウが再び移動に使えるよう修復
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2024/05/kerala-oyako-1024x919.jpg 1024 919 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2024/05/kerala-oyako-1024x919.jpg背景
ゾウのインド南部個体群
インドの南部に生息する個体群は、ケララ州、タミル・ナドゥ州、カルナータカ州、アーンドラプラデーシュ州に含まれる西ガーツ山脈および東ガーツ山脈の一部に分布し、約1万1935頭を擁します[1]。そのうちブラーマギリ~ニルギリ~東ガーツ山脈の(サブ)個体群約6300~6500頭の生息域は、西ガーツ山脈に沿ったブラーマギリ丘陵から、カルナータカ州、タミルナドゥ州およびケララ州に含まれる西ガーツ山脈・東ガーツ山脈のエリアをカバーする(アーンドラプラデーシュ州の分派したグループも含む)1万2000㎢を超える面積に及びます。人口学的にも、遺伝学的にも有効な存続可能個体数を擁するアジア最大のゾウ個体群だとされています。この個体群が生息する一帯は、熱帯性落葉樹が優占しますが、乾燥有刺林から山地性のショーラ草地まで多様性に富みます。なお、インド南部のゾウ生息地では、熱帯性落葉樹林がもっともゾウの密度が高く、1.5~2.5頭/km2とされています[2]。
このサブ個体群の生息域には、ブラーマギリ野生生物保護区(カルナータカ州)、バンディプル トラ保護区(カルナータカ州)、ナガラホール トラ保護区(カルナータカ州)、ムドゥマライトラ保護区(タミルナドゥ州)、ワヤナード野生生物保護区(ケララ州)、サティヤマンガラム トラ保護区(タミルナドゥ州)、ビリギリランガン・スワミー・テンプル トラ保護区(タミルナドゥ州)、コーベリー野生生物保護区(タミルナドゥ州)を含む多くの保護地域が指定されています。特にナガラホール、バンディプル、ワヤナード、ムドゥマライを中心とする2000㎢の広がりは約4000頭のゾウを擁し、1986年にはニルギリ生物圏保護区に指定されています[3]。
[1] P S Easa . 2017. Asian elephants in India: A review. Right of passage elephant corridors of India (2nd Edition). Wildlife Trust of India
[2] K Ramkumar, Surendra Varma, P S Easa, Arun Venkataraman, B Ramakrishnan, Sandeep Kr Tiwari, Vivek Menon and R Sukumar. 2017. Elephant corridors of Southern India. Right of passage: Elephant corridors of India (2nd Edition). Wildlife Trust of India
[3] Raman Sukumar. 2011. The stories of Asia’s elephants. Marg Foundat
[1] Vivek Menon, Upasana Ganguly, Sandeep Kr. Tiwari, Belinda Stewrt-Cox, Caitlin Melidonis and Tara Gandhi. 2020. Safe passage, Safe habitation: Securing the Thirunelli–Kudrakote Elephant Corridor through voluntary relocation. Conservation Action Series 20200815. Wildlife Trust of India
ワヤナード県
ケララ州のワヤナード県(2131km2)は、地理的にはデカン高原の南端部に位置し、大部分が丘陵と台地で占められています。ニルギリ生物圏保護区内のゾウの重要な生息地になっており、バンディプル、ムドゥマライ、ナガラホールという県外の各トラ保護区に連なります。県の一部は、ワヤナード ゾウ保護区(面積1200㎢、ゾウの密度0.25頭/㎢)に指定されています。このニルギリ生物圏保護区に指定されたランドスケープは、人の居住、農業、コーヒーおよび香辛料の大規模なプランテーション、線形のインフラストラクチャーによって分断状態にあります[1]。ワヤナードとは、vayal naduという現地のマラヤラム語で沼の土地の意味です。今日ではvayalは水田の意味で用いられていることに、かつて沼だった、低く、川の氾濫にさらされる土地が水田にされていったことが示唆されています[1]。
[1] Menon, et al. 2020
コッティユル~ペリヤ コリドーの修復
コッティユル~ペリヤ コリドー
コッティユル~ペリヤ コリドーは、ワヤナード・ノース森林区内のペリヤ保護林(ペリヤ森林管理区域の管轄)および(カヌル県の)カヌルKannur森林区内のコッティユル保護林(コッティユル森林管理区域の管轄)に位置しています。
ゾウは、それらの間の狭くうねった森林、ゴム農園、ボーイズタウン村の農地を通って、(東の)ワヤナード野生生物保護区、あるいは(西の)ブラーマギリ野生生物保護区方面へ移動します。ところが、コリドー内の森林は、ボーイズタウン村によって分断されています。また、コッティユル保護林の中を走るパルチュラムPalchuram ~マナンサバディMananthavady道路が山を切り開いて作った切通し道路であるため、多くの場所でその両側が道路面に向かって急傾斜で落ち込んでいます。その結果、ゾウが道路の反対側へ渡ることができる場所は、ボーイズタウン・ジャンクションから500mの位置にある橋付近のみとなっています[1]。近年は森林火災の影響も深刻化しています。ワヤナード・ノース森林区周辺で森林火災がもっとも多くなる時期は、ほぼ1月から3月の間です。1982~2016年の間に、このエリアで316件の火災が記録されていますが、ほとんどが人為的なものでした[1]。もともと開発によって移動にボトルネックが生じている場所で、森林パッチが火災のリスクにさらされると重大な結果を招くおそれがあります。
[1] Menon, et al.2020
この地形を見ると、ゾウが地形の急傾斜を避けてペリヤ保護林Reserved Forestからワヤナード野生生物保護区WLSやコッティユル野生生物保護区WLSへ移動するには、このコリドーを通る以外にないことがわかる。
CRPクンナ村の移転後、人工物が残されたコッティユル~ペリヤ コリドー
コッティユル~ペリヤ コリドーは、バラヤルVarayalとボーイズ・タウンでボトルネックとなっており、その結果、CRP クンナ(CRP Kunnu)など、いくつかの村で人とゾウとのコンフリクトが発生していました。これらのうち、CRP クンナは他の町や村から孤立した山間の野生動物および自然災害によるかく乱に特にさらされがちな村で、特にゾウコリドーの真上に位置していたことが問題を深刻化していました。
ボーイズ・タウン村
そこで、CRPクンナの住民は、自ら進んで2020年からのケララ州住宅地再開発計画 (RKDP)に基づくコリドーの修復事業を受け入れ、7.5 crore rupees(1億3425万円 ルピー=1.79円、クロア:1000万ルピー) 相当の土地5.39ヘクタールの引き渡しを受けました(政府による費用負担)。2022年12月までには38の土地所有者のうち35が世帯ごと移転しました。また、自営業を始めるための機会提供とそのために必要な備品の支給も受けています。
ただ、村が移転した後も、ソーラー電気柵がゾウの移動を阻むように張り巡らされたままであり、住居解体後のがれき、むき出しとなった地面もそのままでした。そこで森林局は、ゾウのコリドーを修復する必要に迫られ、WTIに助力が求められることになります。こうして、JTEFの支援でWTIによるRAP(ラピッド・アクション・プロジェクト)がCRPクンナで実施されることになりました。
[1] WTI. 2023
2024年2月23日、森林局、WTIとともにCRPクンナ村跡を視察。CRPクンナ村入口。
ソーラー・フェンスの配置変更
CRPクンナに張られていた、ゾウの侵入防止フェンスは、もともと村全体を取り囲み、村全体がゾウの移動をブロックしていました(左下の図。紺色でフェンスの配置を示す)。その後、一部村に残った人の敷地内にゾウが入ることを避けるのに最小限必要な範囲だけを囲むように、フェンスを張り直しました(右下の図。水色でフェンスの配置を示す)。こうして、ゾウが村跡を広く移動できるようになりました。図の赤色の場所は、裸地化していましたが、現在、在来の植物を植栽しています。
がれきの撤去と在来植物の植栽
CRPカヌの村人が移転した後、建築資材になるものは運び去られましたが、がれきが残っていました。そこで、WTIとすべての家のコンクリートがれきを片付けることにしました。
がれき撤去の後、ネットによって野生動物に荒らされないよう保護しつつ、WTIとJTEFのRAPプロジェクトにより、20区画へ在来樹木種が植栽されました。
村跡の北西斜面上(左)、北東斜面上(右)でむき出しになった住居跡に植栽が行われました。じかに歩いた北東斜面上にはゾウの糞があり、ここをゾウが移動に使っていることがわかります(右)。
また、苗木の成長その他全体的な現場の保全のため、ソーラー・フェンスの維持、苗木の監視、雑草の除去、不法侵入の監視、人と動物とのコンフリクトへの対処を行う監視員が配置されました。
ベグール森林管理区域管理官、監視員の皆さん、ビベック・メノン、WTIケララ・フィールドステーションのラミス(主任)、シュージュン(社会学)、スジナン(生物学)、WTIHQのスーカニャと。コッティユル・ペリヤ ゾウ コリドーの修復事業実施地である看板が落成されました。