ブログ:外堀を埋められる日本の国内象牙市場

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ワシントン条約第74回常設委員会で、CoP19に向けての重要な取り決めがなされる

アフリカのゾウにとって深刻な脅威である象牙目的の密猟は、やや減少の兆しを見せつつある。その背景にあるのが、世界各国で進む国内象牙市場の閉鎖である。絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)第18回締約国会議(CoP18)は、2019年、CoP17(2016年)が決議10.10を改正して勧告した「国内象牙市場閉鎖」の実施を進展させるため、未実施の締約国に対し、「条約常設委員会における検討のため、その国内象牙市場が密猟または違法取引の一因とならないためにどのような措置を採っているかについて、条約事務局に報告する」よう求めていた。

この決定に応え、今回の第74回常設委員会(SC74。2022年3月7~11日、於リヨン)に向けてオーストラリア、EU, 香港、イスラエル、日本、ニュージーランド、南アフリカ、タイ、英国およびジンバブエの10か国/地域が報告書を提出した。そのうち、ゾウが生息しない国(つまり、国内象牙市場が輸入に依存している国)で未だ市場閉鎖のための立法がなされていないのは、オーストラリア、日本、ニュージーランドの3か国である。

SC74による国内象牙市場閉鎖に関する議題の審議(議案39)は、3月9日の夜間の部で行われた(大量の議題を5日間でこなすため、午前、午後、夜間の3つの部で審議が行われた)。

 まず、条約事務局が、上記10か国による報告書の内容を報告、これによってCoP18が採択した決定の実施は完了したのでそれを削除するようCoP19に勧告すべきであると提案した。今後は市場閉鎖勧告に対する各国の対応状況をモニタリングしていけばよいというスタンスで、関係国の市場閉鎖を積極的に追求することへ消極的な態度が明確に表れている。シンガポールとジンバブエはこれを支持した。

これに対して、イスラエル、米国、EU、中国、ブルキナファソ、ガボン、英国は、未だ閉鎖していない国があるのだから幕引きは時期尚早、閉鎖を追求していくべきだと強く反対した。特にアフリカの2か国は、事前にセネガルとリベリアから提出されていた情報提供文書で詳細に指摘されていた日本市場の問題をとりあげた。日本から違法に輸出された象牙が海外(特に中国)で頻繁に押収されていること、その象牙の出所が日本で合法に販売されている大量の在庫(未加工象牙244トン、ハンコ96万8千本、アクセサリー部品318万個など)という事実である。中国は、名前こそ出さなかったが、「ある国」が(日本を指すことは事実上明らかである)、違法取引を助長していると指摘した。これに対し、日本政府は、決定の廃止か更新かについては意見を述べず、日本の在庫象牙があれこれ言われているが、厳しく規制されているので、取引は限られていると弁明した。結局、圧倒的多数が、国内象牙市場閉鎖を今後とも追及していく姿勢であったため、常設委員会は、CoP18で採択された決定は廃止するのではなく、更新するようCoP19に求めることを決めた。

しかし、上記の結論に加え、今回の会議で決定的に重要だったと考えられるのは、EUが行った提案である。ワシントン条約では、毎回の締約国会議(CoP)に、違法取引された象牙の押収データの分析報告書が提出される(ETISレポート)。この報告書の作成に当たって、押収データ分析の監修にあたる専門の諮問機関に依頼し、合法な国内象牙市場をもつ国にかかわる象牙の押収の分析が可能かどうか、その結果を今年11月に開催されるCoP19に向けて提出される象牙押収データ分析報告書に盛り込むことが可能かどうかを検討するよう、EUは求めたのである。常設委員会はこの提案に留意し、事務局に対してこの作業を行うことを要請した。

この取り決めは、日本の象牙市場の将来に大きな意味を持つ。国際社会の懸念は、日本の象牙市場が、違法輸出の供給源になっていることである。2018~2020年に日本から輸出された象牙の押収は、中国等の新聞に載っただけで76件に及ぶ。それでも日本は「把握していない」「条約の象牙押収データ分析報告書に日本が違法輸出に寄与しているとは書かれてない」として、違法輸出の実態を認めてこなかった。逆に言えばETIS報告書に日本の違法輸出の実態が書き込まれて、日本の市場が違法取引の一因となっていることが露わになれば、日本ももはや、このような言い訳はできず、逃げ道は防がれることになる。それにもかかわらず、日本が閉鎖の意思を明らかにしないようであれば、CoP19が日本に対して市場閉鎖勧告に反するものとして、名指しでこれを遵守するよう求める可能性が高い。今回の常設委員会の取り決めは、11月のCoP19(開催地パナマ)に向け、日本の国内象牙市場を閉鎖に向けて追い込むことになるだろう。

 また、今月(3月)中には、崖っぷちに立たされた東京都「象牙取引規制に関する有識者会議」の第7回会合(最終回)が開催される。前回会合では、最終報告書の骨子案に「有識者会議としての提言」の項目すら盛り込むことができず、東京都独自の対策を視野に入れた小池都知事のイニシアチブが失敗に終わる公算が高いことを示すものとなっていた。しかし、このまま「有識者会議としての提言」すらなく「2年間こういう話合いをしました」という報告書がとりまとめられた数か月後に、日本政府が国内象牙市場閉鎖に追い込まれることになったとしたらどうであろうか。都民、国民、そして世界は「東京都は勢い込んではみたものの、結局腰砕けのままに国に追い越される憂き目を見た」と評価するであろう。東京都には土壇場での誤りのない状況判断と奮起が求められる。

 最後にJTEFの行った活動を報告する。 SC74開催の直前に、日本政府による国内象牙市場の規制にいかに重大な問題があるかを報告書にまとめて公表した。これが締約国の目に留まり、上記のセネガルとリベリアがSC74に提出した情報提供文書でもその内容が引用されることになった。 また、JTEFはSC74に登録オブザーバーとして参加した。会議の合間には、世界のNGOと協力し、関係国に日本の国内象牙市場の問題点を説明し、日本の象牙市場を閉鎖することの重要性を訴えた。3月9日の国内象牙市場閉鎖の審議の際には、17のNGOを代表して発言し、国内象牙市場閉鎖を追求することの重要性、特に日本の合法象牙市場はその規模からも現にそこから象牙が違法に海外流出している事実からも圧倒的な注目に値すること、そして上記のEU提案を強く支持することを強調した。