トラー危機と保全の動きの今_2024

気候変動は絶滅のおそれのあるトラにとってかなり大きな問題となっています。JTEFの支援先のインドでは森林火災がたびたび起きていますが、インド森林省の調査によると、2022年月の期間で212,249件の火災が報告されました。ロシアおよび、それと国境を接する中国では気温上昇から松林がモミやトウヒの森にとって代わり、チョウセンゴヨウマツなどの木の実の減少から、アムールトラやヒョウの獲物である草食動物が減り、生息域は広いのにトラの個体数は600頭以下と、他地域と比べて密度が低いままです。

100万ヘクタールという広大な面積を有するスンダバンスは、ベンガル湾の海水と、ガンジス・プラマプトラ両河川の淡水がせめぎあう河口地帯にあります。世界最大のマングローブ林が茂り、世界自然遺産にも指定されています。野鳥、魚類、ワニなどの爬虫類、いくつものシカ類、サル類など多様な生物が生息します。何よりトラが生息する世界唯一のマングローブ林であり、トラ保護区に指定されています。ある論文は、気候変動政府間パネルが公表している2つのシナリオに基づいて、2050年および2070年時点でのスンダバンスにおけるトラにとって好適な生息地の状況を予測しています。これによれば、2050年時点でのトラの個体数と好適生息地は急速な減少を明確に示すとされています。そして、2070年時点では、トラもその生息地も完全に喪失するということです。この予測では、密猟、コンフリクトが原因となるトラの排除、疾病などを考慮しなくても気候変動と海面上昇だけでトラを壊滅させるに十分な要因となるというのです。つまり、上昇する海面と減少する降水量により、局地的な水域の塩分が増加、高い塩分濃度はスンダバンスのサンドリの木々を枯死させ、トラの生息地が縮小するということです。気温が上昇するなか淡水も減少し、飲み水などに利用することが厳しくなります。この予測では考慮されていない、生息地を追い出されたトラと対岸の村に暮らす人々とのコンフリクト、大型のサイクロンの発生、病気の蔓延、獲物が不足などが重なった場合、状況はさらに悪化してしまうでしょう。