報告書:東京都の象牙業界に対する補助金交付について、知事へ意見書提出
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/hanko-180612.jpg 484 465 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/hanko-180612.jpg2024年6月11日、JTEFと米国のNGOであるEnvironmental Investigation Agency(EIA)は、小池百合子東京都知事に対し、「象牙業界団体に対する東京都補助金に関する意見書」を提出しました(意見書の要約版は、EIAのウェブサイトに掲載されています)。東京都の産業労働局は、長年にわたって、象牙製品に対する国内需要を高めること、あるいは将来の国際象牙取引実施に向けた検討を進めることを目的とした象牙業界(東京象牙美術工芸協同組合)の事業に対して、補助金を投入し続けてきたことを明らかにしたものです(近年は、毎年平均約400万円)。
補助事業の例
- 象牙組合による2021年7月5日付補助金申請書類によれば、「現在、附属書IIにある国はナミビア、ジンバブエ、南アフリカ及び再度大統領が代わって方針変更したボツワナの4カ国で、象牙の国際取引再開に一番近い位置にいる。また、附属書IからIIへの移行(ダウンリスト)に興味を示していたザンビアとタンザニアのうち、ザンビアがCoP18で再度ダウンリスト及び象牙取引再開の提案を提出した。今後のワシントン条約締結国会議(CoP19)以降に向け、日本と立場を同じくする南部アフリカ諸国に生息するアフリカゾウの最新情報を入手・サポートを継続し、サイテスをめぐるこれらの国々の考えやスタンスを前もって把握するため、調査を実施する」とされている。
- 象牙組合による2018年10月12日付申請書類によれば、「これらの展示やイベントにより、一般消費者がワシントン条約の内容を正しく理解し、『象牙工芸品』に対する関心や購買意欲を高め、需要の拡大により都内象牙業者の経営の安定と発展が図られるという効果」があり、「更に、需要が拡大することにより、ワシントン条約締約国会議において、これまで象牙輸入を行ってきた国以外の国々からの、象牙輸入のテーマが本格化することが期待でき、原材料確保に向けてさらに大きく前進できるという効果がある」とされている。
しかし、象牙需要を増加させる試みを支援することは、合法象牙市場のある締約国等に対して、象牙の供給および需要の減少を含む普及啓発キャンペーンを実施することを勧告するワシントン条約決議Conf.10.10に違反します。また、象牙の国際取引再開を図り、その口火を切らんとすることは、国際情勢に対する認識を欠くものです。さらに、この補助金交付は、国際社会および日本の民間セクターの努力を無視するものであり、何より、小池百合子東京知事が自ら主導した新たな取組みの趣旨と齟齬するものです。東京都はこのような補助金を支出する一方、2020年4月以来象牙取引規制の評価を行っていました(担当は政策企画局)。検討を行った都の有識者会議は、その報告書で一部製品を除く象牙販売を禁止する条例の検討を提言していました。
この意見書では、上記のような目的のもとに交付される補助金は直ちに停止するよう求めるとともに、一部の例外を除いて都内の象牙販売を禁止する条例の制定を提言しました。意見書とともに都知事に送った書簡では(東京都政策企画局気付)、これに対する文書による回答を、2024年6月28日をまでにいただきたい旨求めていましたが、東京都から回答にはさらに時間を要するとの連絡があったという状況です。
*背景事情*
- 密猟によるゾウの大量殺戮へ対処するため、1989年、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)によって、象牙の国際商業取引が禁止された。
- 日本は、1990年に象牙の国際取引禁止が発効した後、条約による許可の下、1999年と2009年の2度にわたって南部アフリカ諸国でオークション販売された象牙を輸入し、これを手中にした唯一の国である。
- 2016年、再来した密猟危機へ対処するべく、ワシントン条約の締約国は、密猟または違法取引に寄与する合法的な国内象牙市場を有するすべての国に対し、これを緊急に閉鎖するよう勧告する改正決議案をコンセンサスで採択した[1]。この勧告の主たる目的は、合法市場が合法性を装う違法な象牙のロンダリングの温床となることを防止するとともに[2]、合法市場を有する国で入手され、他国に輸出される象牙製品が違法な象牙製品に対する需要を高め、それがために輸出先の国における法執行の取組みと需要低減措置を損なうリスクを減少させることにある[3]。日本も、上記のコンセンサスに参加していた。
- 日本は、政府に登録された何千もの象牙取引業者を擁して象牙製品を製造し続ける、グローバル・コミュニティから孤立した存在である。さらに、その活発な国内合法取引が違法な国際取引と結び付いているという強固な証拠もある[4]。それにもかかわらず、日本の市場は開かれたままである[5]。
- 2020年1月、東京都知事は、国際社会の訴えに応じて東京における象牙取引の影響評価を実行することを約し、東京都がとるべき対策を提言するための専門家から成る有識者会議を設置した。
- 2022年3月、有識者会議は2年間の審議を経て、報告書を公表した。そこで示された提言には、象牙取引に対処するための法的措置の検討を求める提言が含まれていた[6]。
- ところが、東京都は、報告書公表後2年にわたってその検討を怠っている。
[1] Res. Conf. 10.10 (Rev. CoP19), paragraph 3 https://cites.org/sites/default/files/documents/COP/19/resolution/E-Res-10-10-R19.pdf
[2] CoP17 Doc. 27 “ACTIONS TO COMBAT WILDLIFE TRAFFICKING” submitted by the US
[3] CITES SC74 Doc.39 Annex 2 https://cites.org/sites/default/files/eng/com/sc/74/E-SC74-39.pdf
[4] EIA. (December 2020) Japan’s Illegal Ivory Exports. https://us.eia.org/campaigns/wildlife/elephants/japan-ivory/
坂元雅行. 2022. 象牙密輸業者の入手先―日本の違法な象牙輸出に関する中国判例の分析. トラ・ゾウ保護基金 https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2022/12/Ivory22Nov_J.pdf
[5] EIA&JTEF. 2023. Reality Check: Japan’s Legal Domestic Ivory Market https://us.eia.org/wp-content/uploads/2023/10/SC77-EIA_JTEF-Japan-Briefing-_FINAL_31-Oct-2023.pdf
[6] 象牙取引規制に関する有識者会議報告書(2022年3月) https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/seisakukikaku/zouge_houkokusho