ブログ:象牙業者の冷笑が目に浮かぶ:7月1日からの象牙登録「厳格化」の実態
https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/190608chobe-ele.jpg 821 849 Japan Tiger Elephant Organization Japan Tiger Elephant Organization https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/190608chobe-ele.jpg2019年6月7日、環境省は、「全形を保持した象牙の登録審査方法の厳格化に係る運用について」記者発表を行った。
https://www.env.go.jp/press/106849.html
象牙の国内取引は、「種の保存法」によって管理されている。管理の根幹をなすのは、「登録を受けないでする象牙の譲渡しや譲受けを禁止する」規制である。
だが、この規制の対象となるのは、「全形を保持した象牙」に限られている。分割された、いわゆる「カット・ピース」や(もともとの牙の形状がとどめられていない)製品は、登録せずとも取引できる。
このように書くと、逆に全形牙の取引はしっかり規制されているように思えるが、それも違う。当然だが、全形牙なら何でも登録できるわけではない。象牙の国際取引が禁止された1990年1月18日以前に輸入されたか、日本国内で取得したものに限られる(他にも、その後例外的に条約上の許可を得て輸入されたものが登録できる場合があるが、2010年以来そのような例はない)。
したがって、規制が意味のあるものとなるためには、「1990年1月18日以前に取得されたことを正確に確認すること」が必要になる。
しかし、登録事務を行う「自然環境研究センター」(自然研)http://www.jwrc.or.jp/service/cites/regist/kikan/1.htmは、環境省の指示のもと、登録申請者の家族や知人の「昔から象牙があったのを見ました」という一筆(環境省のいう「第三者の証言」)を根拠に、規制時以前の取得時期を認め、登録を行ってきた。トラ・ゾウ保護基金やEnvironmental Investigation Agency (EIA US)などは、「出所の怪しい全形牙が、裏付けなしに登録され、合法化されている」と厳しい批判を繰り返してきたのはもちろんである。2018年10月には、この抜け穴を利用した大掛かりな虚偽登録事件が宮城県警などにより摘発され、県警は環境省に抜け穴を防ぐよう提言まで行った。だが、環境省は今月(6月)末日まで、これまでの運用を継続してきた。
今回、環境省が発表した「厳格化」とは、「規制適用日以前に適法に所有したという自己申告の裏付け証明について、『第三者の証言』のみでの登録を認めず、『第三者の証言』及び『第三者の証言を裏付ける補強(全形牙の放射性炭素年代測定法による年代測定結果等の客観的に証明できる書類)』を求めることとします」というものである。
ようやく、「家族の一筆だけではダメ」と認めたわけだ。もっとも、放射性炭素年代測定は、測定した象牙の持主だったゾウがいつ死んだかを科学的に判定できるものだが、登録申請者がいつ象牙を取得したかがわかるわけではない。だから、あくまで「家族の一筆」の補強証拠という位置づけだ。
しかし、これで「出所の怪しい全形牙が、裏付けなしに登録され、合法化されている」問題が解決したわけではない。
第1の問題は、環境省の示す手順では、年代測定されたサンプルが採取された象牙と、登録を受ける全形牙とが同一のものかどうかが確認できないという問題である。
環境省の発表内容によれば、登録申請者が自分で象牙からサンプルを採取して、自分の選んだ測定機関に送り、その測定結果を自然環境研究センターに送るという手順になっている。https://www.env.go.jp/press/files/jp/111766.pdf
登録が認められれば、登録票が交付され、それと共に全形牙が売れるようになる。
だが、その全形牙が、年代測定のために送られたサンプルを削り取った象牙と同一であることを、どうやって確認するのだろうか。登録審査は、従来どおり書類審査のみである。手がかりになるのは、サンプル採取前後に申請者が撮影して、年代測定結果と共に自然研に送られた象牙の写真のみである。
これで同一性が確認できると考えるのは、あまりに「ご都合主義的な楽観論」といわねばならない。全形牙をハンコの加工用材料として求める象牙業者らの冷笑が目に浮かぶようである。
第2の問題は、さらに大きい。放射性炭素年代測定は、1サンプル当たり6万円から9万円もかかるため、全形牙の登録申請は、実際のところ減少するだろう。しかし、この1年9か月をかけて環境省が行った「登録促進キャンペーン」の成果もあって、国内の登録全形牙は既に160トンも在庫されている。これに事業者の持つカット・ピース70トン、在庫量がまったく不明のその他の象牙が加わる。7月1日までに既に在庫された大量の象牙については、放射性炭素年代測定が求められることはない。これらの取得時期の怪しい象牙は、引き続き、違法象牙の隠れ蓑として、また海外への違法輸出の供給源として機能し続ける。
それにしても、これほど大量の象牙がオープンに売れる合法的象牙市場は、他にない。日本政府がいかに「我が象牙市場は、厳格に管理されている」と強弁しようと、昨日発表されたばかりの「最新の厳格化」のお粗末な内容を見れば、日本の象牙市場は「もはや手が付けられない状態」にあるというのが本当のところだろう。米国、中国、英国、香港等のように「閉鎖」する以外、選択の余地がないことは、ますますもって明確なのである。
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