イリオモテヤマネコ発見50年


イリオモテヤマネコとは

イリオモテヤマネコPrionailurus bengalensis iriomotensisは、世界で西表島だけに生息するヤマネコです。
1965年に動物文学者の戸川幸夫氏らが発見(1967年に新種記載)、もともと300平方キロメートル(東京23区全体の約2分の1)にも満たない島にヤマネコが生息していること自体が奇跡的などといわれ、国際的にも注目されました。
西表島は水の豊かな、森林におおわれた島です。20万年も前に、大陸から離れて島化し、その長い地史の中で独自の生物進化が起こりました。その結果、島固有の種、亜種(別種というほどではないが、相当の変異が見られる種の地域的グループ)を生みました。イリオモテヤマネコもその1つです。
イリオモテヤマネコはイエネコとほぼ同じくらいの大きさで(体重約3~5kg)、やや胴長短足気味で尾は太いという特徴が有ります。体に小さなまだら模様が見られ、目の周りに白いくまどりがあります。顔つきはトラなどの大型野生ネコに似ています。
明け方・夕暮れにとくに活発に活動する夜行性で、単独で暮らします。

 

戸川幸夫について

戸川幸夫先生1965年に動物作家の故戸川幸夫は、取材で訪れていた沖縄で西表島には野生のネコがいるらしいという話を聞き、飼いネコの野生化したものだろうと思いつつも、西表島で聞き取り調査を始めました。すると島民の多くが知っていて、彼らが話す特徴が皆同じだったため、本物の野生のネコではないかとヤマネコ探しに夢中になりました。当時沖縄はアメリカの統治下にあり、西表島へは東京から沖縄経由で石垣島へと飛行機を乗り継ぎ、さらに小さな船で2時間かかったと言います。現在、島には東部と西部を1時間で結ぶ県道がありますが、当時はいったん石垣島へ戻り、改めて船を乗り換えなければならなりませんでした。戸川は東部でも西部でも多くの島民の手助けを得て、ヤマネコの聞き取り調査を行いました。そんな島民のおかげで、1つの頭蓋骨と毛皮を手に入れ東京に持ち帰り、動物学者の今泉吉典博士に相談しました。すぐに日本哺乳動物学会(現:日本哺乳類学会)の緊急例会が開かれ、「これまでに知られていない野生種である」と認められ、67年には新属新種として記載されました(のちにベンガルヤマネコの亜種とする見解が主流となった)。その後、68年3月に捕獲された2頭のイリオモテヤマネコが、国の委託で2年半ほど東京の戸川宅で飼われ、その後無事に国立科学博物館へ移りました。

イリオモテ

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ヤマネコの危機

存在が奇跡とさえいわれたように、小さな島に生存できるヤマネコの数には、もともと限界があります。そのイリオモテヤマネコが20万年間も行き続けられたの は、亜熱帯の多様な生物相が豊かな食物を提供し、隔離された島という状況が環境の安定性を確保してきたからです。しかし、もともと亜熱帯の島の生態系は絶妙なバランスのもとに成り立っている、もろいものです。その環境が不安定になったとき、イリオモテヤマネコはあっという間に絶滅への坂を転げ落ちます。 今、まさにその兆候があらわれはじめています。

イリオモテヤマネコの危機をもたらす原因の第1は、人間の土地利用による生息地破壊です。
イリオモテヤマネコがもっとも高い密度で生息するのは、沢や湿地林が豊かな低地部です。しかし、人間が様々な土地利用を展開するのもこの場所です。西表島に暮らす人々にとっては宅地や道路が必要です。もともとの基幹産業である農業用地の整備もここで行われてきました。近年主要産業となった観光業との関係では、リゾート施設の開発も行われています。こうした土地利用がイリオモテヤマネコの生息地内で行われると、イリオモテヤマネコの生息環境が悪化し、やがてはそこにあった行動圏を放棄せざるを得なくなります。

イリオモテヤマネコの危機をもたらす原因の第2は、交通事故です。 西表島には唯一の幹線道路として、南東端から海岸線に沿って北岸を通り、北西部に至る県道があります。イリオモテヤマネコの重要な生息地のある低地部を貫いて走るこの道路は、イリオモテヤマネコの行動圏内を貫通し、やむなく路上を移動するヤマネコの交通事故を引き起こしています。

ヤマネコ行動圏図

1978年から2015年(4月10日現在)までの37年の間に68件の交通事故が報告され、65頭のイリオモテヤマネコが死んでいます。数が少なく絶滅にひんするイリオモテヤマネコにとっては無視できないダメージです。しかも、交通事故は全体に増加傾向にあります。2016年はもっとも事故の多い年となり、7頭の交通事故が発生しています。

ヤマネコ交通事故

1978年以来76件 (事故死体回収73頭).

島唯一の県道は、1972年の沖縄の本土復帰以来、東西の集落を結ぶように延長・整備され、1992年から2015年にかけては全線にわたって拡幅・直線化が行われました。道路の下にヤマネコを通らせるためのトンネルが123個も設置されましたが、より多くの車が、よりスピードを出して走れる道路になってしまった影響は打ち消せないようです。 環境省が注意看板を出すなどの周知も行われていますが、依然としてスピードの出し過ぎや路上のイリオモテヤマネコへの注意が十分でない運転が目立ちます。さらに、観光が盛んになれば、観光用のバスやレンタカー、観光業者の車も増えます。
以上のような脅威のために、近年イリオモテヤマネコの数に減少傾向が見られるようになりました。1994年当時には 108~118頭といわれていましたが、2008年時点では100~109頭と、イリオモテヤマネコ発見以来初めての減少傾向が確認されました。そのため、環境省作成の2007年版レッドリストでは、「絶滅危惧ⅠA類」というもっとも絶滅のおそれの高いグループに分類されてしまいました。

イリオモテヤマネコの危機をもたらす原因の第3として、ヤマネコの重要な生息環境である沢や湿地林に入り込むようなツアーが増えていることが 懸念されるようになっています。あまり人が入らなかったところに頻繁に人が行き来することでイリオモテヤマネコの生活が妨げられるおそれがあります。また、大勢の人の踏みつけなどによって植生をだめにしたり、土壌が崩れたり、沢が汚染されるとイリオモテヤマネコの餌動物の生息にも影響が及ぶおそれもあります。

西表で出会える野生の動物たち

photo:西表で出会える野生の動物たち
(上段左より)アカショウビン、オカガニ、カンムリワシ、ズアカアオバト(下段左より)セマルハコガメ、セマルハコ ガメ、ヤエヤマオオコウモリ、ヤシガニ
[ 参考資料] 琉球大学. 20 08. イリオモテヤマネコ生息状況等総合調査(第4 次)報告書 第二東京弁護士会環境保全委員会. 20 08. イリオモテヤマネコの保全に向けた法制度的観点からの調査報告書

西表で出会える野生の動物たち

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