野生生物保全についての考え方

なぜ野生生物を保全するのか?

コラム:イースター島の教訓~生物多様性保全の人類にとっての意味

 面積わずか200平方キロメートル(東京都の10分の1)のイースター島は、太平洋の真ん中にある孤島です。島には平均6メートルを超える巨大なモアイ石像が600体以上存在することで有名です。島では社会の仕組みがよく発達し、石像を製作し、運搬する高い技術がありました。

イースター島の住民の先祖は5世紀にやってきた200人ほどのポリネシア人でした。その頃のイースター島は、高さ20メートル以上の高いヤシの木を含む植物におおわれていました。その後人口は増え、1550年には7000人にもなりました。人口が増えるのにつれ、開墾が進みました。また、暖房や調理用の燃料、生活用具、小屋、漁をするためのカヌーの材料として、木が切られていきました。しかし、何にもまして木が必要だったのは、おそろしく重い多数の石像を、島の各地の祭壇に運ぶためでした。石切り場から神をまつる場所まで丸太をしきつめ、おおぜいの人間がすべらせながら運んだのです。1600年までに島はほぼすべての森林を失い、裸にされてしまいました。

 森林がなくなったので、雨は直接大地をたたきつけ、肥えた土が流れ出し、作物は育ちにくくなりました。新しい家を建てることもできなくなり、岩穴や草を使ったそまつな小屋に身を寄せるしかありません。カヌーも作れないので草で舟を編みましたが、これでは遠くまでこぎ出せません。人々は、食糧などを取り合ってほとんど絶え間のない戦闘に明けくれ、人口はどんどん減ってしまいました。  

(緑の世界史(上)(1994) ポンティング 朝日新聞社)

 私たち人間を含め地球のすべての命をつなぐ生命維持装置は、生物多様性の恩恵で成り立っています。人間は地球のいたるところに進出し地球を支配しているように見えますが、20世紀の終りになって人間の力によって地球の生命装置を創り出すことは不可能だということがようやく理解されるようになりました。イースター島の人々が島から逃れられなかったと同様に、人類は地球から逃れることはできないのです。イースター島だけでなく、地球全体の生物多様性を生み出す力も、人間活動の影響に対して耐えられる限界があります。「生物多様性の保全」が、地球温暖化防止とともに、人類生存の鍵を握る2つの地球環境問題のひとつとされるのはそのためです。

(坂元雅行)


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