「野生生物保全」は、本当の意味での「生物多様性の保全」、つまり生きものが自然に進化するプロセスを確保することをめざすものです。
今日、地球上にお互いに姿も暮らし方も異なった、様々な多くの命が生をつむいでいます。人間というひとつのグループ(「種」)の中でも一人一人が異なっていますし、小さなチョウと人間のように種間では驚くほどの違いがあります。様々な種と環境(地形や気温や湿度など)との組み合わせ(「生態系」)も、場所によって大きな違いがあります。このような多様さ=生物多様性は、40億年の間に数知れぬ命が誕生し、絶滅し、それに代わる命がまた現れるという「進化」の歴史の中で、あるときは爆発的に、あるときは徐々に発展してきました。野生生物保全は、生物多様性を生む自然な進化のプロセスを、「止めない」、「さまたげない」ことをめざすものです。
なぜ、野生生物を保全するのでしょうか?
生物多様性は、私たち人類が生存し続けるために不可欠です。多様性が失われれば、十分な食料を生産できなくなり、好適な気候は失われ、清浄な空気や水も得ることもできなくなります。「地球の生命維持装置」の正体こそ生物多様性だからです。ただし、生物多様性に生を支えられているのは人類だけではありません。進化の歴史の先輩であり、同じ地球に生きる仲間である、すべての命がその恩恵を受けています。現在、生物多様性保全という言葉が多くの人々に知られるようになりましたが、あまりに人間本位な「保全」のとらえ方も目につきます。「人間のため」という発想だけでは、生物多様性の自然なあり方をゆがめ、結局はそれを失うことにつながるでしょう。
「野生生物保全」は、野生生物の絶滅の危険を回避するために人間がとるべき措置です。
その原則は、人間の手によって絶滅の危険を引き起こした原因を取り除き、その後は野生生物とその環境の回復力にゆだねることです。ただし、自然な回復が望めない場合には、人間が慎重に手をさしのべるべき場合もあります。こうした措置は、それぞれの野生生物のおかれた状況をよく念頭におきながら、「自然な進化のプロセスを止めない、さまたげない」という目標に向う筋道を描きながら実施されなければなりません。◆「野生生物保全」に向けられる疑問
>「野生生物保全」は、人間にとって有害な野生生物の排除についてどう考えているのか?>「野生生物保全」は、経済価値のある野生生物の利用についてどう考えているのか?
◆「野生生物保全」のめざすもの
> 真の生物多様性保全=進化プロセスの確保◆なぜ野生生物を保全するのか?
> 人類のために> コラム:イースター島の教訓~生物多様性保全の人類にとっての意味
> 地球のすべての命のために
> コラム:進化の歴史
◆野生生物保全とは、何をすることなのか?
> 野生生物保全=絶滅の危険を回避するために人間がとるべき措置> 野生生物保全の戦略的実施