野生生物保全についての考え方

野生生物保全とは、何をすることなのか?

野生生物保全=絶滅の危険を回避するために人間がとるべき措置

 今日、野生生物種に絶滅の危険を生じさせている脅威のほとんどは、人間が作り出したものです。主な人為的脅威としては、生息地の消失・分断化、過剰な捕獲・採取、外来生物(家畜種の野生化を含む)の侵入、化学汚染、病原体の侵入、遺伝子組換生物の放出、気候変動などがあげられます。
 絶滅の危険を回避するために人間がとるべき措置=野生生物の保全の原則は、絶滅の危険を生じさせている人為的脅威をとり除くことです。絶滅の危険が大きくても小さくても、この原則は変わりません。野生生物は、もともと生物間および生物・非生物間の相互関係のなかで進化してきた存在です。そのため、人為的脅威の消滅によって自律的な回復が可能であれば、それにゆだねることがもっとも確かな方法といえます。
 しかし、人為的脅威をとり除くだけでは、絶滅の危険を最小限に押さえ込めないこともあります。このような場合には、人為的な積極介入(人間が「手を出す」こと)を考慮する余地が出てきます。
 ひとつの例は、生息地の分断化が進んでしまった場合です。野生生物の個体群ひとつひとつを見ると、安定して繁殖が行なわれている個体群だけでなく、出たり消えたりするものや、個体数の変動が大きいものがありますが、これらの個体群どうしの間を個体が行き来することで、お互いが関係づけられ、全体として維持がはかられていると考えられています(メタ個体群構造)。生息地の分断化が進んでメタ個体軍構造が崩れたとき、一定の時間を経て、(特別な事件がないのに)孤立した個体群(一つの種の地域的なグループ)がひとつまたひとつと消滅していくおそれがあります。そこで、個体が、生息地パッチ、特に新たな個体を供給するパッチどうしの間を移動する際の障害を最小限にしなければなりません。「コリドー(渡り廊下)」として機能する土地の確保は、そのための有効な方策です。コリドー確保にあたり、その土地がすでに人為的に撹乱されている場合は、道路、ダム、それら構造物の一部を除去・移動することをはじめ、植採による本来の植生の復元や、地形、水系の復元などによる積極的な修復措置が必要となります。
 もうひとつの例は、乱獲、外来生物の侵入等により個体群が生存可能な個体数を自力で回復できないほどに減少してしまった場合です。外来生物の場合、新たな侵入が完全に阻止されても、すでに侵入した外来生物が定着して安定的に繁殖したり、繁殖はしていなくても短期的に在来種に深刻な影響を与える場合もあります。この場合は、定着した外来生物の人為的な排除が必要です。より積極的な措置としては、乱獲等により個体数が減少した個体群の増強(遺伝的攪乱を引き起こさない個体の加入等)や、地域的に絶滅した個体群を再び定着させるための再導入などがあります。

(坂元雅行)


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