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ゾウのニュース & JTEFのコメント

‘ならず者’のタスカー、矢に当たるも捕獲できず

Dehradun(インド、Uttarakhand(カンド州ウッタラー))にて、2011年11月30日

 カンド州ウッタラーにあるDehradunとNarendranagarの隣接する林地で、ここ2年間に18人が大きなタスカー(牙のあるオスゾウ)に殺されたとされているが、昨日捕獲を試みていた専門家のチームが疑わしいゾウを目撃した。ゾウは矢には当たったが、捕獲することはできなかった。

 そのゾウは、凶暴で群れから離れた‘ならず者’であることが11月9日州当局によって明らかになり、国民の安全のため撃ち殺すよう命令が出された。しかしその後、生きたまま捕獲するためのチームが設置された。捕獲されていた3頭のゾウが、Corbettトラ指定保護地区からこの象の追跡のため連れてこられた。
 インド野生生物トラスト(WTI)は、アッサム地方で凶暴なゾウを扱った経験のあるゾウ使い2人を協力のために連れてくるなど、難局に立つ動物管理のため森林局へ支援を行っている。

 「その夜、象がNarendranagar森林区Shivpuri森林管理区のハーブ畑にいたのを見ました。暗闇の中鎮静剤を放つのは望ましくありませんでしたが、その凶暴なゾウが、捕獲されているメスゾウの一頭に襲いかかろうとしていたので、仕方がありませんでした。Malik博士が放った矢は命中しました。」とチームの一員であり、WTIのコーディネーターであるアニル・クマール・シン博士は言う。しかし射止められたはずのゾウは近くの森に逃げてしまい、暗い中チームが捜索するのは困難になった。

 そのゾウは9 フィート(約2.7メートル)、牙は小さく、耳に傷が数か所あると確認されていて、報告によると2009年12月17日初の死者を出す原因となったゾウと一致する。Rishikesh地方の森で二人が犠牲になったものだ。
 その上、Dehradun林野部のRishikesh地方とBarkot地方、Narendranagar林野部のShivpuri地方で死んだ18名がそのゾウによるものとの疑いがかかっている。先週土曜日には新たに女性が一人犠牲になっている。

 「状況証拠によってそのゾウと特定されました。我々はその襲撃から逃げ出せた人々や目撃者と話しましたし、写真も見ました。また、この地方には象の群れが三つあり、その中に合計4頭の凶暴なタスカーがいます。メスのリーダーが率いる群れに一頭、そのほか2頭のタスカーのグループがいますが、地元の人によると性格は穏やかだということです。疑わしいのは単 独行動をしているゾウです。」とシン博士は付け加えた。
 捕獲さえできれば、ゾウは接触の機会が最小限になるよう広大な森に移されることになっている。

 「これは慎重に考察しなければ、他の地域に問題を移すだけになってしまいます。当局はこれ以上犠牲者を増やさないよう、ゾウの捕獲に一番関心を寄せています。同時に、そのゾウを放つ場所としてHaldwani森林区やCorbettなど、一番ふさわしい地域を模索しています。」とシン博士は言う。
 明日、2011年12月1日、再びそのゾウの捕獲を試みる。明日無線付の首輪がWTIから現地に届く予定だ。
(翻訳協力 柳川さやか)

【JTEFのコメント】

 インドの「野生生物保護法」The Wildlife (Protection) Act, 1972では、指定動物の捕獲は禁止されています(正当防衛の場合は、捕獲について罪に問われることはありません)。 ただし、「人命を危険にさらす場合」、「財産を危険にさらす場合(穀物や土地を含む)」(第1種指定動物の場合は適用なし)、「回復不可能なほどの傷害を受けあるいは疾病に罹患している場合」は、野生生物保全官長Chief Wildlife Wardenの許可によって例外的な捕獲が許されます。

 ゾウやトラは第1種指定動物とされているので、農業被害や家畜被害があるという理由では捕獲は許されません。また、「人命を危険にさらす場合」もかなり厳しく解釈されており、捕獲が許される場合は非常に限られています。日本であれば、死亡事件を起こした野生動物は例外なく殺されてしまうでしょう。しかし、インドではそのようなことはありません。ゾウの場合は、偶発的な事故が重なったからといって許可が出されることはないようです(ゾウが田圃に現れたため追い返そうとした村人が、パニックになったゾウの逆襲を受けて死亡した場合や、燃料木を取りに森に入ったところ出会ったゾウに攻撃されて死亡した場合)。許可、特に捕殺の許可が出るのは、人間を敵視し、繰り返し攻撃を加える「ならず者」rogueと見なされた場合に限られるといってよいでしょう。

 なお、インドの野生生物保護法では、そのほかにも注目すべき規定をおいています。 生け捕り、麻酔による精神の安定、人の手による移転のすべてが不可能であると野生生物保全官長が認めた場合でなければ、殺傷は許されません。 生け捕りや移転が行われる場合には、動物に与えるトラウマを最小化しなければならないとされています。また、生け捕りにされた動物は、野生下でリハビリしていくことが不可能だと野生生物保全官長が認めない限り、飼育下においてはならないと定められています。つまり、野生動物は野生下で保全されるべきであるという原則が強調されているといえます。


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