ゾウのニュース & JTEFのコメント
ゾウ密猟者がケニアの非武装野生生物保護官を殺害
ケニアで今週末、レンジャーのアブドラヒ・モハメドが職務中に、ゾウ密猟者に殺害された。環境保護組織Wildlife Works(ワイルドライフ・ワークス)のレンジャーであるモハメドは、ワイルドライフ・ワークスのREDDプログラム(森林伐採および浸食作用による温室効果ガス排出を減らすプログラム)の一環であるカシガウ回廊プロジェクトで勤務中、密猟者達に銃撃された。
「わたくしどものレンジャーのうちのいずれかが職務執行中に殺されるのは、創立以降15年間で初めてのことです。今回の事件は、東洋市場、特に中国で象牙の需要が増加しているせいで、暴力がエスカレートしていることの反映です。」ワイルドライフ・ワークスの創立者にしてCEO(最高経営責任者)、マイク・コーチンスキーは、報道者向け公式発表で、こう述べた。
モハメドは、傷ついたアフリカゾウを発見した後、丸腰で、他のワイルドライフ・ワークスやケニア野生生物公社(KWS)の自然保護員達と共に密猟者の後を追っていた。もう一人のワイルドライフ・ワークスのレンジャーであるイジェマ・フナンもまた、射撃されたが、回復途上にあると思われる。密猟者は逃亡し、現在に至るまで逮捕されていない。
Kasiguaカシグア・コリドー(野生動物が重要な生息地間を移動する際に回廊のように使う土地)は、ツァボ東国立公園とツァボ西国立公園の間にある。現在、約450頭のゾウが、プロジェクト実行中に他の多くの土着の種と共に発見されている。このカシグア・コリドー・プロジェクトは、去年初めてREDDの評価を得た。
「このぞっとするような、心を責めさいなむ事件は、そのコミュニティーとこの地域に生息する野生生物にとっての実在の脅威を、強く物語っています。象牙の不正取引市場が残存する限り、コミュニティーもそこに住む野生生物もゆゆしい危険状態にあるのです。ですから、我々は、勇敢なケニア人を支援して、その現地の環境を守る闘いを助け続けるつもりです。我々は、アブドラヒ・モハメドやイジェマ・フナン、そしてそのご家族が、今日、野生生物保護の名においてなした犠牲を、決して忘れてはならないのです。」
コーチンスキーはモハメドの葬式で、こう弔辞を述べた。
近年、アフリカ中でゾウとサイの密猟がエスカレートしてきている。象牙は、中国では地位の象徴であり、象牙などの牙への需要は、経済成長と共にうなぎ上りに増えてきている。新興の富裕層が、象牙の箸やヘアピン、伝統的な印鑑、他のぜいたく品を買い求めるからである。2005年には、CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:ワシントン条約)事務局は、中国を「1995年以来の象牙違法取引の増加傾向に単独で最も重要な影響を及ぼした存在」として、ランク付けした。象牙の国際取引は、1989年に禁止されている。
アフリカゾウ(アフリカ・ブッシュ・ゾウともいう)は、ICUN(国際自然保護連合)のレッドリストで危急種(3番目に絶滅のおそれが高いカテゴリー)として記載されている。ICUNは、すべてのアフリカゾウが(アフリカ・シンリン・ゾウ、別名マルミミゾウ、も含めて)単一の種であると考えている。現在のアフリカゾウが直面している主な脅威には、生息地の喪失、人間とゾウとの軋轢、そして、密猟が含まれる。
(翻訳協力 蔦村的子)
アフリカ象の密猟と象牙の違法取引が、1989年の象牙取引禁止以来かつてないほど深刻化しています。
最大の原因は、中国の経済成長により、象牙需要が劇的に拡大したことでしょう。「象牙の合法的なマーケットをきちんと保護して、違法取引は排除する。」この考え方が、現実の前にいかに無力であるかは明白です。1989年に一度は閉じられた象牙マーケットは、巨大な需要によって完全な復活を遂げつつあります。
マーケットを完全に閉じておけば、象牙の「儲かる商品」というイメージが20年の時の流れの中で相当風化していたかも知れません。そうさせなかったのは、象牙マーケットの「棺」に隙間を入れ、象牙マーケットの延命をはかってきた者たちです。その中心が、日本政府であり、日本の象牙業界でした。日本の象牙業界は衰退しつつあり、現在では象牙の密猟や違法取引に対する影響は中国ほどではないと思われます。しかし、1989年の象牙取引禁止以来、ワシントン条約の場で象牙取引再開を叫びつつけ、1999年に唯一象牙の合法な輸入を成し遂げ、「活かし続けた」象牙マーケットの貴賓席を「巨人」と化した中国にいわば「引き継いだ」のです。今後は、中国につかず離れずの姿勢で、象牙取引の利益に預かっていこうという方針でしょう。現在の事態に対する日本の責任は非常に重いといえます。