ゾウのニュース & JTEFのコメント
密猟者、タンザニアのゾウを大量虐殺
タンザニア政府は来年3月のワシントン条約締約国会議で、押収された象牙のストック100トンの取引提案を出しています。しかし、タンザニアでは、野生生物部局の役人が密猟に関与した事件もあります。また観光客がすばらしいゾウの写真をインターネットで公表したことが密猟者を呼び入れているとも考えられています。象牙取引を再開することはゾウを守ることになるでしょうか。
「象牙」という言葉が鳴り響き、溜息と一緒に囁き交わされていた。まるで象牙に向かって祈ってでもいるかのようだった。-ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」より引用
コンラッドは、1世紀以上も前、ゾウの射殺を取り締まる法律がない頃、この小説を書いた。この頃と違いがあるとすれば、今日の象牙取引規制が、暗い誘惑に加わっただけである。
ゾウの虐殺や違法な象牙の強奪は、数年間に最も高い水準にまで達した。アジア市場は飽くことを知らず、アフリカにおける野生生物の保護は混沌としており、ゾウの群れはアフリカ大陸のいたるところで危険な状態におかれている。密猟者は群れごと銃で撃ち殺しているのだ。
主要な戦場は世界で最後のゾウの豊富な宝庫の1つであるタンザニアである。おそらく7万頭から8万頭のゾウがこの国の広大な自然保護区を放浪しており、その頭数はおそらく全アフリカゾウの4分の1に達している。
植民地時代には、タンザニアのザンジバル島で、世界最大の象牙オークションが開催された。こうした公のオークションは、密輸業者間の闇のネットワークにとって代わったが、タンザニアは依然として主要な象牙の供給源となっている。
2009年から2011年まで、タンザニアは、世界で主要な違法象牙の輸出国であった。法律の実施により押収された全象牙の37%がタンザニア由来のものであったが、隣国ケニアは僅差で2位だった。
先週末、香港の税関は、約4トン近くの象牙を押収したと発表した。タンザニアやケニアにあるインド洋沿岸の港から船積みされたコンテナ2個の中に隠されていたのである。
象牙が単にタンザニアの港から積み替えられただけなのか、それともタンザニアの保護区から略奪されたのかが争点になっている。
ほとんどなされていないゾウの保護
自然保護活動家たちは、タンザニアはここ何年もアフリカで最悪のゾウの屠殺場になっていると述べている。密猟や密輸を制限できない、あるいは制限する意思のない関係当局を非難している。タンザニア政府は問題が存在することを認め、改革は進行中であると述べている。
「現在タンザニアでは、ゾウの大虐殺が進行中である。事態は収拾不可能である。」と、アフリカで47年間ゾウを研究し保護してきたイアン・ダグラス・ハミルトンは述べている。「ゾウの頭数を守れないのは、前世紀にアメリカでバイソンが全滅した(しそうになった)と同じである。だから冗談を言っている場合ではないのだ。」
タンザニアは奇妙にも、ゾウの大量虐殺に関しては沈黙してきた。しかし最近、慈愛にあふれた白髪の国会議員が以下のような厳しい評価を与えている。
「1日に30頭のゾウが殺害されており、今年末には、約1万頭のゾウが殺害されることになる。」と、国会の天然資源委員会議長であり、元国立公園の役人でもあるジェームス・レンベリは話している。「ゾウのいるこの国中を移動してみれば、死骸が至る所に見つかるのだ。」
ゾウの死骸を求めて
私は、自分で出向いて確かめようと決心した。
自動車のタイヤを切り抜いて鼻緒を付けたサンダルを履いたマサイ族2人が、家畜を集めるために、手の込んだ口笛を用いている。マサイ族は、乾燥したとげのあるブッシュや黄褐色の草地の風景をつぶさに知っている。そこで2人はわれわれを、最近ゾウが殺害されたタンザニアとケニアの国境まで導いてくれた。
われわれは、死んだゾウの死骸の所まで歩いて上がった。そのゾウは、約2週間前に殺害されたのであった。残ったのは、巨大な硬い皮だけであった。それは、外側がネズミ色で、内側がピンク色をしており、大草原の上で腐敗していた。
密猟者は、象牙を引き抜いて行った。村人たちが来て、肉を全て切り取った。そして、頭を取った。こうした場面は、タンザニア中で、何度も何度も繰り返されている。
今日アフリカでは、様々なタイプの密猟者がやって来る。コンゴは最近、ウガンダ兵が軍のヘリコプターからゾウを機関銃で撃っていると非難した。大型猟獣を狙う狩猟者(スポーツハンター)のように、何日も徒歩で巨大なゾウを追跡する密猟者もいる。他に高度先端技術(ハイテク)を利用した手っ取り早い方法を用いる密猟者もいる。
ロバート・ウォルテンバーグは、チャラ湖サファリ・キャンプを経営している。そこは小さな個人的な保護区だが、そこでもわれわれはゾウの死骸を見つけた。この数週間のうちにここで殺害された8頭のゾウの内の1頭である。
マスコミが密猟者を助けている
ウォルテンバーグは、自分の顧客がマスコミで大きな牙のあるゾウの写真を公表することにより、密猟者を無意識に対象物へと導いてしまっていると思っている。資金豊富な密猟者はマスコミを監視しているのだ。
「インターネットで検索するのは、大変簡単である。ただ、この地区における「ゾウ観光」と打ち込むだけで、検索結果が表示されるのだ。」とウォルテンバーグは述べている。
信頼性のあるゾウの殺害数を知るのは難しい。MIKE(ゾウの違法殺害の監視)プログラムによれば、タンザニアの野生生物保護区におけるゾウの死の60%から90%が密猟者によるものである。セレンゲティーのような国立公園は、より良く保護されている。
他のアフリカ諸国のように、タンザニアは、貧困や劣悪な行政、それに腐敗のために、ゾウを失っている。
まず、1対の大きな象牙は、農民の必要最低限の年間所得になっているということだ。
次に、レンジャーの賃金が安いということ、それに有罪の密猟者に対する処罰が、たった13ドルの罰金にしかならないことなどがある。 3番目に、タンザニアの天然資源省内部の個人が、当然保護するはずの国の遺産を売りに出してしまっているのである。
野生生物の役員が関与している
過去数ヶ月間、野生生物部局における閣僚や幹部は、2つの汚職事件に関与し解雇された。つまり、狩猟地区の割り当てのために賄賂を取り、116頭の生きた野生動物を大型旅客機に乗せて、タンザニアを出国してカタールに向けて密輸するのを許可したのである。
カミス・カガシェキという名の、新しい閣僚であり元外交官でもある人物は、野生生物擁護団体から高く評価されている。ダル・エス・サラームの彼の事務所で、カガシェキは、この建物内の人間が密猟者を助けたのかどうかを問われている。
「もちろん腐敗はあった。全く率直なところ、われわれには財政的困難があった。」とカガシェキは述べている。
彼の関心事は、率直なツアー・オペレーターのパトリック・パテルと同じである。
「私は、もっとたくさん解雇する必要があると思う。われわれも、業界も確かに、多くの野生生物局の役人が保護区の密猟に関係していることを承知している。」とパテルは述べている。「残念なことに、野生生物局は、ある意味、独立企業のようなのである。」
カガシェキは、北方の隣国ケニアを高く評価している。ケニアの密猟防止法や野生生物公社は、ゾウの殺害者に対してタンザニアより非常に強固である。カガシェキは、5ヶ月前に引き継いだ省の省風を変えようとしている。
「私が述べているのは、われわれは厳格になる必要があるということである。われわれには、全く選択の余地はない。こうした人間は、刑罰を受けずに無垢な動物を殺害しているのである。ゾウを見てみれば、美しい獣なのである。」とカガシェキは述べている。
自然保護活動家たちは、タンザニアのゾウに対する係わり合いを心もとなく思っている。
今月、タンザニアは、ワシントン条約締約国会議で押収された100トンの備蓄象牙の取引希望を通知した。
タンザニア政府は、1回限定の象牙の販売により、野生生物保護のための何百万もの資金が集まるだろうと述べている。自然保護活動家たちは、象牙の販売は、ゾウの虐殺をよりあおるだけだと述べている。
【翻訳協力】日原直子
タンザニアはここ何度もワシントン条約締約国会議にて、象牙の取引を希望していました。1997年と2002年に南部アフリカの在庫象牙の1回限りの取引が認められましたが(実際の輸出は1999年、2009年)、タンザニアには認められていませんでした。1回限りであっても再開が決まれば、象牙はこれだけ大量に売れるもの、東アジアでは象牙がいくらでも売れるというメッセージが密猟者に、国際的な違法取引ネットワークの間に広がるでしょう。現に再開を見込んで密猟がこんなに増えているのです。群れごと殺せばあっという間に野生のゾウはいなくなってしまいます。