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ロシア・トラサミットは野生のトラを救う最後のチャンス

ゲティン・チャンバレン(Gethin Chamberlain)記、ニューデリー、『オブザーバー』紙、2010年10月17日

森林破壊と密猟で絶滅の危機にある野生のトラ生息国13カ国がサンクトペテルブルグで会議を開く

絶滅の危機からトラを救う最後のチャンスであり、正にトラの運命を決めるロシア会議に向けて、トラ生息国13カ国の首脳は準備をしている。

11月サンクトペテルブルグで開催される世界トラサミットは、世界規模の回復計画を打ち出すため、トラ生息国13カ国と国際保護団体が集結する。イギリスとアメリカの参加も要請した。

WWF(世界自然保護基金)はサミットの成功を楽観視している一方、もし失敗すればアジアのトラ全部の絶滅につながる恐れがあると警告している。『オブザーバー』紙によると、サミット声明の草案は、過去10年間に世界のトラの数が40パーセント減少し、「アジアの象徴的動物であるトラの絶滅の危機は深刻である」と警告している。

さらに、「このサンクトペテルブルグ宣言の採択により、トラ生息国が世界の国々へ呼びかけ、今までの流れを変え、トラ個体数の回復へ共に努力する」と結論している。

しかし、実現の難しさが先週発表されたニュースで明らかになった。隠しカメラが映し出したのは、ヤシ油のプランテーションの不法開拓のために破壊されたスマトラのトラ生息地であるインドネシアの森林部分であった。一方、シンガポールでは覆面捜査官がネット広告に出ていた数枚のトラの皮を押収した。

世界銀行の支援のもと、サミット本部は2022年までにトラの数を倍増しようとする合意に達することを期待している。しかし、すでに事態は手遅れであり、サミットは単なる議論に終わり、何も成果を生まないだろうと考える保護活動家もいる。

密猟と人的侵略により、前世紀10万頭いたトラは現在の3200頭まで激減し、その内、繁殖可能なメスは1000頭しかいない。しかも先月発表された調査研究によると、参加13カ国のうち、中国、ベトナム、カンボジアの3カ国には繁殖可能な個体数がすでに存在しないという深刻な状況だ。

ケンブリッジ大学、世界銀行、アメリカに本部をおくWCS(野生動物保護協会)の研究者らによるその調査研究の結論は、「トラは過去20年間減少し続けており、現在のトラの保護政策はその減少をくい止めていない」と分析する。

さらに、残っているトラ全部の保護を考えるよりも、繁殖の可能性の高い場所を集中的に援助すべきであり、「現地域住民との摩擦を最小限にとどめる必要がある。このように重点を転換すれば、今までの減少傾向の逆転を迅速に、経済的に実現できる」と勧告している。

その調査研究には開催国のロシアを当惑させるような調査結果もある。ロシア極東地域では過去5年間に約15パーセントという「トラの激減」が発覚し、減少の背景に密猟取締りの緩和が関連している。

シベリアトラ、別名アムールトラ、は20世紀半ばに50頭となり絶滅寸前だったが、現在は400頭が野生で生息していると考えられている。サミットの主催者であり、自称筋金入りのトラの愛護家であるロシアのウラジーミール・プーチン首相が、トラの数が再び減少しているなどと聞いたら嘆くことだろう。

2008年誕生日のプレゼントにトラの赤ちゃんをもらい(送り手は不明)、同年、テレビのスタッフを襲おうとしたアムールトラを麻酔銃で撃って助けたという驚くべき出来事で注目を浴びた。トラの保護訓練を視察している首相を撮影中、スタッフにトラが突然向かってきたという。

トラの保護対策で苦闘しているのはロシアだけではない。今年初めに『オブザーバー』紙に掲載された記事、「インドのトラの数は減少の一途」によると、保護活動家の中には、公式発表の1411頭よりも大幅に少ない800頭しか野生に残っていないと考えているものもいる。

最近のインドの出来事はいかに試練が厳しいかを如実に物語っている。パンナ・トラ保護区では昨年他の国立公園から補充したが、若いトラ2頭が行方不明で死亡したものと思われる。また、首都デリーからわずか150キロメートルのウッタル・プラデシュでは、以前トラが出没しなかった地域で3人がトラに襲われるという事故があり、土地をめぐる人間とトラの闘いをあらわしている。

インドネシアのブキット・ベタバー森林で隠しカメラが希少なスマトラトラを映像におさめた。その後、カメラはヤシ油のプランテーションのためブルドーザーが開墾する様子を映し、荒廃した土地に戻ってきたトラを記録した。

このような陰鬱な状況にかかわらず、サミット支持者は楽観的である。WWFイギリスの野生生物種プログラムの主任、ダイアン・ウォーキングトンは、世界規模の回復計画の概要が作成され、政治家をこの問題に専念させることができたことは大きな前進だと語る。

「トラの数は回復できるが、油断は禁物である。現在の3200頭は非常に少ない。」解決策は密輸などの問題に国境を越えた協力にあると指摘し、それが実を結んだ例として中国とネパールの協定を挙げた。しかし、生息数がここまで少ないため、今を逃すともうチャンスはない。「もし、これが失敗するとアジアのほとんどの地域でトラは絶滅してしまうだろう」と警告する。

サミットが、現場が直面している問題、たとえば貧しい農民たちが土地を求めてトラの生息地へ入り込むというような問題を解決するというよりは、政治家の見せかけのパフォーマンスに過ぎないのではと懸念する保護活動家もいる。
インドのランタンボール・トラ保護区のトラを主に撮り続けている活動家であり写真家のアディティア・シンは、今までのサミットの首脳たちが問題を理解していなかったと指摘する。

「現場で実務的に問題になっていることの説明が何もなく、その結果現実の問題が政策論議に取り上げられない。現場で働く者と保護政策のトップとつながっていない。どちらもお互いの問題を知らず、個々の保護対策も連携していない。気候サミットのようなものだ」と批判する。

会議に参加するトラ生息国は、バングラディシュ、ブータン、ミャンマー、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ネパール、ロシア、タイとベトナムである。
(翻訳協力 石原洋子)

【JTEFのコメント】
トラサミットで実質的な取締強化や保護区拡大などに持続的に資金が届く仕組みを作り、各国に取締の強化を義務付けなければ絵にかいた餅になってしまいます。
実質的な効果が得られる国際会議にしてほしいと強く望みます。

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