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トラのニュース & JTEFのコメント

沿海地方で人とのトラブル 子トラの死

フェニックス、2011年1月27日

寅年の2010年が過ぎ去るとともに、沿海州(プリモリエ)ではトラと人間の衝突やトラの子の死亡など多くのニュースが地元紙に掲載された。

2010年12月21日、沿海州のクラソノアルメイスキー地区のウデヘの伝統文化国立公園付近で30歳のハンターがトラの襲撃を受けた。被害者は頭、手、臀部を激しく引き裂かれ、病院に搬送された。事件の一報を受け、直ちにトラの専門家が現場に向かった。ハンターの話では、犬2匹と森でイノシシの足跡を追っていたところ、突然トラに襲われたという。幸いどうにかトラを撃退できたという。トラの専門家が現場の状況を調べた結果、男が故意にトラを追い、トラが獲物を狙っていたところを見つけ発砲したという結論に至った。またこのハンターが多くのトラを殺害していたという噂もある。残念ながら直接的な証拠が乏しく、警察は告訴に至らなかった。

2010年9月にウデヘの伝統文化国立公園に戻された3頭のトラの孤児のうち1頭の死亡が2010年12月28日に報告された。

「2009年12月、不良な健康状態の2頭のトラの子タチアナとボロドヤは沿海州の沿道で発見された。2010年2月には3番目のトラの子ラズリナが沿海州北部ナゴルノエ村付近の犬小屋で発見された。当初トラの子たちはトラの調査施設で保護されその後4月に検疫と駆虫薬投与の期間を経て、2010年2月26日付のロシア自然監督庁の許可に従って沿海州スパスキー地区カイボロン村にあるユージン博士の科学センターに移送された。

5ヶ月間、3頭のトラの子たちは動物学者の細心の注意の下で人から隔離されて過ごした。居住と飼料の費用はロシア極東地域でのアムールトラ研究プログラムの一環としてIEE RASが負担した。トラたちは肉を与えられた。それに加え、狩猟能力を養う目的で、囲い地内で定期的に生きたイノシシ(5匹)とシカ(8匹)を捕る機会が与えられた。2010年9月、幼い捕食動物たちは丸々と太り[ボロドヤ101 kg、タチアナ77 kg、ラズリナ83 kg、優れた狩猟能力を備えていた。

2010年9月27日、3頭のトラの子たちはロシア自然資源省が2010年8月13日に決定し2010年9月16日付で発した許可に従ってウデヘの伝統文化国立公園に放たれた。幼い3頭を野生復帰する前に、専門家は彼らを計量、血液サンプルの採取と無線首輪の取り付けを行った。動物たちの健康状態は良好だった(獣医証明書:2010年9月27日付より)。血液の臨床検査で感染症などは何も発見されなかった。

トラたちは1歳を過ぎていた(乳歯から永久歯に生え換わっていた)。通常トラの子は1歳半から2歳まで母親のそばにいる。しかし3頭の保護を続けるにはあまりにリスクが大きかった。餌が乏しく天候の厳しい冬場に彼らを戻すのは明らかに不可能だった。もし彼らを今後7カ月間、例えばトラの獲物が増える4月まで保護すれば、トラたちは長期にわたる専門家との接触によって人間に対する恐怖心を失い、それが将来人との衝突を引き起こす原因となるだろう。

無線首輪の信号から2009年9月27日から2011年1月17日の間にボロドヤの居場所は183か所で特定された。彼は900平方メートルもの地域を移動した。無線首輪からの信号は時々彼が獲物を食べる間停止していることを示した。2010年9月の野生復帰以来、1~13日間の間隔で通算11回、類似の理由による停止が確認された。

2011年1月15~16日にトラ調査の専門家とウデヘの伝統文化国立公園はアルム川流域にいるボロドヤを追跡した。1月15日、一行はトラの足跡を発見し、彼が長距離を移動したことを確認、その約2~3日前に野生のイノシシを捕えていたこともわかった。さらにトラはアカシカを捕えようとしたが取り逃がしていた。

無線首輪の信号と現地からの情報を総合した結果、トラには野生の獲物を狩猟する能力が備わっていることが証明された。天候が良くなったことも都合が良かった。霜は解け積雪量は減少した。

雌トラ・タチアナの1週間の居場所については無線首輪の信号から19か所で特定できた。その後信号が途絶えた。専門家は密猟者に殺害された可能性もあると推測している。

ラズリナの無線首輪は9月27日から12月26日まで安定した信号を送っていた。トラの専門家は合計324か所の位置信号を受信した。雌トラのラズリナは570平方キロメートルの距離を移動した。若い彼女は時々2~3日移動を止め、餌を食べた。野生復帰から2か月以内にラズリナは1~10日間の休息期間を交えながら9体の動物を捕えた。12月8日、彼女は自分の領域を出た。恐らく大雪のため餌が不足し食料を探しに出る必要に迫られたのだろう。彼女はまず北東に移動し、その後急激に西へと進路を変え、デルス村近郊のボリシャーヤウッスルカ川の川岸で動きが止まった。以後4日間彼女の首輪は同じ位置から信号を送った。IEERASとトラ調査の専門家の一団が現場に向かい、12月28日にラズリナの遺体を発見した。

遺体は沿海州農業アカデミーに送られ、I.V.イヴァンチューク准教授、I.P.コロトコヴァ准教授、D.V.エフトシェンコ獣医師による検視が行われた。検視報告書とモスクワ動物園M.V.アルシネトスキー獣医長、モスクワ州立大学獣医学および生物学のK.I.スクリャビン准教授、N.V.エサウロヴァ博士(生物学)、その他の専門家との協議に基づき、次の結論に達した。

死因は衰弱死。遺体のリンパ節に腫れがあったことから何らかの感染症が原因となったとも考えられる。カタル性肺炎、蠕虫感染、腸炎など{ぜんちゅう かんせん}{せい はいえん}奇形やケガの大半は極度の衰弱が原因で起きた。衰弱の原因は食糧不足か感染症だった。ラズリナは全部で3カ月間を野生で過ごしたが、トラの専門家は彼女に素晴らしい狩猟能力がなければそれほどの期間を餌なしで生き延びることは不可能だと確信している。加えて、彼女の無線首輪からの信号は、定期的に餌の付近にいることを示していた。最後の狩猟日(12月4日)から死亡推定日(12月22日)までは18日が経過した。明らかにこの期間にラズリナは衰弱し、その後体内組織に回復不可能な損傷を負い、死に至ったと見られる。研究室に送られた組織標本の組織学的分析結果が近々発表される」

他の2頭のトラ‐ボロドヤとタチアナ‐はこの冬を生き抜いてほしい。3匹のトラの子のうち1頭だけでも新しい環境に適応し、自力で野生を生きられれば、大成功なのだ。タイガーを動物園に送るのではなく、タイガ(シベリア地方の針葉樹林)を生き抜くチャンスを与える価値はある。実際、野生のトラの場合、3~4頭のうち生き延びるのが1頭だけということもある。この現象は自然淘汰と呼ばれている。

将来的にトラの生存率を上げるためには、病気、ケガ、孤児の保護されたトラが健康診断、治療、専門家のケアを受けられるリハビリテーション施設を沿海州に建設する必要がある。ロシア政府はこの案を承認し、計画の基本資金を提供していることは良いニュースだ。リハビリテーション施設の建設は沿海地方ナジェジジンスコエ地区で始まっている。184,000ドルの計画はセベルツォフ生態学進化問題研究所が監督する。同研究所は既にロシア連邦政府から基本資金の半分を受領し、現在施設海外の援助者や環境NGOからの運営資金の提供を求めている。ロシアで最大規模になると予測されているリハビリテーション施設は2011年8月31日に完成の予定だ。野生生活の準備のための3ヘクタールの囲い地はトラたちにとって十分な広さだ。ロシア極東の森に放される前に、トラたちはここで狩猟訓練を行い、人間への恐怖心を養うことになる。
(翻訳協力 秋谷亜希子)

【JTEFのコメント 2011年2月】
3頭の子トラの追跡調査で狩猟もうまくいっていたのに衰弱死してしまったとは、非常に残念です。最終的に動物園に行くような施設ではなく、真の意味での一時的な緊急避難所としての施設ならアムールトラの今の危機に対処できると期待が持てます。

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