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ミャンマーの内戦、病めるトラを追い詰める

Agence France-Presse、2012年6月22日

ミャンマーのトラの狩猟による絶滅を防ごうとする努力は、この絶滅危惧種の世界最大の生息地で荒れ狂っている内戦の脅威にさらされていると、専門家は警告する。

先の軍事政権は2010年にトラ保護区を約8450平方マイル(2万2千平方キロ)に拡大した。これはおよそイスラエルの大きさに相当し、50頭ないし70頭のトラが残っていると考えられる辺境のフーコン渓谷に設けられた。

しかし、過去1年間にわたる軍部と少数民族の反乱勢力の衝突により、東南アジア最後の辺境のひとつから動物たちが姿を消すのを防ぎ、野生生物を保護しようという努力は妨害を受けている。

大部分の衝突は、より中国との国境に近い東方で起きているが、反乱側のカチン独立軍(KIA:Kachin Independence Army)は、世界でも最も豊かな生物多様性を持つ地域であるフーコン渓谷を部分的に制圧しており、今では外国人の立ち入りが禁止されている。

KIAは保護区の設立を支持したものの、戦闘のため、レンジャーたちが森の奥深くまで分け入っていくのは危険すぎると考えられている。カチン州では何万人もの住民が立ち退きを余儀なくされた。

「今、積極的にパトロールに出るのは難しいです」と、ヤンゴンの専門家、ロバート・ティザード氏は言う。ティザード氏は、ミャンマー政府と協力して保護区内のレンジャーの訓練にあたっている野生生物保護協会(WCS、本拠地ニューヨーク)に勤務している。

「訓練生は迷彩色の作業服を着て、まるで軍かKIAのように大量の装備を持ち歩いていますからね。もし私たちのチームが急に武装グループと行き会って誰も状況を把握していなければ、事故が起きる確率は非常に高くなります」

自然保護活動家によればこの渓谷ならトラが数百頭は生息できるが、生息数を元に戻すには、体の部位が中国伝統薬で珍重されるトラとその獲物の両方の密猟を取り締まる必要があるという。

「トラの状況はひどいもんです」と、野生ネコ科動物保護団体「パンテラ」の最高責任者であるアラン・ラビノウィッツ氏は言う。彼は保護区設立に尽力した人物でもあるが、今ではかの地のトラ生息数は急激に減少しているのではないかと恐れている。

「トラは今でも貴重だし、リスやカチンといった土着の住民は中国との取引に深く関わっていて、トラを片っ端から殺してしまうんです」と、ラビノウィッツ氏は、アメリカ合衆国からの電話でAFPに話した。

「率直に言って、私はあの土地のトラを救えると確信はしていません。それでも努力してみるのは、あそこがかなり大きな土地で、もっと北に行った辺境にはまだトラのいる地域もあると知っているからです」と、付け加えた。

資金の欠如も問題だったが、最近の西側の制裁措置の緩和により、これだけ大きな土地に必要なパトロール要員に払うお金がもっと使えるようになるかもしれないという期待が生まれたと、この専門家は言う。

「法執行も必要だし、保護もレンジャーも — それが一番ですね」1999年にこの地域で最初の生物学的調査を実施したラビノウィッツ氏はそう付け加えた。

1世紀前には10万頭のトラがアジアの森や草原をのし歩いていたが、その数字は主に密猟と生息地の減少が原因で激減している。地球全体で、トラの生息数は3000頭にまで落ち込んだと考えられている。

国際自然保護連合(IUCN)によると、ミャンマーやタイ、ラオス、ベトナム、カンボジアと中国南西部で見られるインドシナトラは絶滅寸前の状態にあるという。

フーコン渓谷はこの地域最後の密林のひとつといわれ、保護区により、ウンピョウやアジアゾウといった他の大型哺乳類も保護されることが期待されている。

ミャンマー政府はトラの保護を宣言し、保護区を守るための職員を募集している。地元市場の抜き打ち検査も野生動物の肉の売買を阻止する役に立っているという。

「保護区の職員やトラ保護警察部隊、それに野生生物保護協会は、狩猟及び不法侵入の規制や取締のために協働しています。」と、自然野生生物保護課(Nature and Wildlife Conservation Division)はAFPへの声明文で述べた。

先住民の人々をレンジャーとして雇い入れることで、地域社会が大型ネコ科の保護の重要性を学ぶことが期待されている。

しかし、トラの価値は、動物たちを狩るのは地元民だけではないという事実も意味している。密猟者は、地域内の他の場所からもやってくると信じられている。

「トラ1頭当たり何万ドルにもなるのです。トラの数の少なさ、見つけにくさを考えれば非常に専門的な職業であるといえます」と、ティザード氏は言う。

障害は大きいが、自然保護活動家たちは、ミャンマー北部の戦闘が終結すればフーコン渓谷のトラには平和が戻ると期待している。

「トラといっても、大きな猫ちゃんなんです。ちゃんと繁殖はします — 食べるものを十分に与えて、彼らを狩ろうとする人間を締め出すことができれば」WCSのアジア局長コリン・プール氏はそう話す。

「トラには最適な大きな生息地です。あとはただ場所を与えてやればいいだけなんです。でも、ある程度の平和と安全が実現されるまでそうはいかないでしょうね」
【翻訳協力】木田直子

【JTEFのコメント 2012年7月】

インドシナトラは多くの生息国に分布していますが、各国で保護政策が違い、また国境付近でブラックマーケットが存在するために、トラの保護が十分効果をあげていません。 フーコン渓谷も周辺に生息するトラがここを通って他国の保護区へ移動する中間地点であるため、保護区になったときは非常に嬉しいニュースだったのですが、反政府軍のカチン族が密猟に関わっているならトラを絶滅させかねない状況です。商業価値の高い動物を保護するためには密猟者を厳罰にして、他の密猟者への見せしめにする必要があります。


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