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シャトゥーシュ取引反対派の勝利―取引業者に有罪判決
現地裁判所がシャトゥーシュ(チベット・アンテロープの毛織物)の取引業者に有罪判決を下した。デリーのDig Vinay Sign特別市治安判事裁判所は法律で禁止されているシャトゥーシュのショールを違法に所持、取引した罪でMohammed Ishaq Baig被告を有罪とした。
告発したのはデリー市野生生物保護局長。告訴に協力したインド野生生物トラスト(Wild Trust of India)は今回の司法判断について、シャトゥーシュの違法取引抑制のための重要な動き、と歓迎した。
インド野生生物トラストのアショク・クマール副会長は「シャトゥーシュの取引業者への有罪判決が下されるのは非常に稀であり、間違いなく違法取引業者への抑止効果があるだろう」と語った。
ジャム・カシミール州スリナガルの住人ベイグ被告は、1999年3月、野生生物捜査員RS チャギ、SS ネギ、PR メエナらが率いて行った摘発により、デリーのアパートで逮捕された。所持品として押収した159のショールのうち10点がシャトゥーシュ製品だった。被告は保釈中だった。
過去5年間裁判に協力してきたインド野生生物トラストのサウラブ・シャルマ弁護士は次のように語った。
「10年以上の歳月を経てようやく正しい判断が下され、嬉しい。長期戦だった上に、高裁に被告側から訴訟取り消しの申し立て書が何度も提出され、その棄却のための対応があった。今は1月23日の量刑言い渡しを心待ちにしている」
今回の司法判断は、かつてシャトゥーシュの取引業者で、現在は国際動物福祉基金(IFAW)とインド野生生物トラスト(WTI)が英国高等法院の協力により実施する代替生活支援プロジェクトに参加中の人々も歓迎している。この生活支援プロジェクトは、シャトゥーシュに代わり、パシュマ(Pashma)というブランドネームの純正で質の高い手製のパシュミナの製造取引を行っている。
前シャトゥーシュ業者で早くからパシュミナ事業に移行したF.アーメド・ミール氏は次のように語った。
「本当に素晴らしいニュースだと思う。パシュミナの代替事業ができてからもスリナガルでは闇でシャトゥーシュがたくさん作られていると聞いていた。違法製造は警察の取り締まりによって取引が減り、なおかつ違反者が迅速に裁かれるようにならない限りなくならないだろう」
シャトゥーシュは絶滅が危惧されているチベット・アンテロープの非常に柔らかい毛でできている。1972年公布のインドの野生生物保護法クラス1に記載され、1986年にインド国内のチベット・アンテロープの捕獲とその製品の取引が禁止された。
しかし事実上シャトゥーシュが取引禁止となったのは、1990年代半ばに著名な自然生物学者ジョージ・シャラー博士がシャトゥーシュと絶滅のおそれのあるチベット・アンテロープとの関連性を発表してからのことだ。それ以前は、スリナガルの職人によって独占的に製造されてきたシャトゥーシュの原材料は、シロイワヤギから取れると思われていた。一方で中国チベットのチャンタン高原(チベット自治区北部)とインドのラダック(ジャム・カシミール州)のみに生息するチベット・アンテロープは大量に捕獲され、20世紀初頭には推定100万頭が生息していたが、現在では75000頭まで減っている。
「野生生物保護法で禁止された後もなお、スリナガルではシャトゥーシュの製造が続いた。ジャム・カシミール州の自然保護法は、限定的なチベット・アンテロープの捕獲と製品取引を認めていた。しかし世界中の自然生物保護関係者からの多大なる圧力を受け、2002年5月に法改正が行われた」と1998年にジャム・カシミール州高裁に公益訴訟を起こし、最高裁判決でチベット・アンテロープの捕獲・取引の禁止を勝ち取ったクマール氏は話す。
「インドでは1990年代半ば、シャラー博士の発表後も未加工のシャトゥーシュや製品が多数押収された。2002年5月、ジャム・カシミール州政府がシャトゥーシュの製造を禁止したことで、やっとインド国内のシャトゥーシュ取り締まりの大きな抜け穴が塞がれたといえる。しかし訴訟手続きの遅れから、現在も多くの裁判所でシャトゥーシュ取引関連の事件が係争中となっている。今回の有罪判決がインドのシャトゥーシュ取り締まりの新時代の幕開けとなることを願う」クマール氏はさらに続ける。
「トラの減少は消費国中国とおおいに関係があるとインドが言っていることに中国は反論して、シャトゥーシュ問題はインドの責任と非難している。しかし今回の有罪判決と数多くの押収物によって、インドがチベット・アンテロープ保護のための役目を誠実に果たしていることが証明された。中国はトラの保護問題に関するインドの主張に、きちんと向き合うべきだ」
(翻訳協力 秋谷亜希子)