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ホッキョクグマの取引は禁止する必要がない

野生生物モニター、2010年1月20日

 カナダ等でつくられるホッキョクグマ製品の国際取引を禁止するというアメリカの提案に対し、国際的な野生生物取引監視機関であるトラフィックは、必要のない対策としてこれに反対する意向を示した。

 ホッキョクグマの商取引を事実上全面的に禁止しようと、アメリカはワシントン条約(CITES: Convention on international Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)に基づいたホッキョクグマの再評価を提案している。

 3月にカタールのドーハで開催される会議では、国際条約に署名している175の国々がアメリカの提案について投票を行うことが予定されている。

 トラフィック(TRAFFIC)は水曜日、ホッキョクグマが直面している脅威は気候変動による海氷の減少が主な要因であり、北カナダの先住民、イヌイットなどがよく捕獲するホッキョクグマで作られる製品の取引によるものではないと結論付けた。

 「トラフィックの報告では、気候変動がホッキョクグマにとって一番の脅威であり、取引は実際には重大な脅威ではありません」と、世界自然保護基金(WWF)の北極圏担当のクレイグ・スチュワート(Craig Stewart) 保全調整官は水曜日のCBCニュースの中で語った。

 「つまり、アメリカの提案は(ワシントン条約に基づいた)評価の格上げに必要な生物学的基準を満たしているとはいえないようです。」

 世界自然保護基金と国際自然保護連合(IUCN: IUCN The World Conservation Union)のプログラムであるトラフィックは自身のホームページの中で、野生動植物の製品の取引が自然保護への脅威にならないよう努める、と述べている。

 今回のアメリカ政府の提案は、気候変動による海氷の減少がホッキョクグマへの脅威になっているとして、2008年にホッキョクグマの絶滅危惧種への指定を決定したことが背景にある。

 1990年代以降、国際間で売買されるカナダのホッキョクグマは年間およそ300頭(個体数全体の2パーセントにすぎない)で、トラフィックによると、商取引は増加していないという。

 トラフィックが作成した提言書(一部抜粋)によると、「カナダは、現在ホッキョクグマの部位や製品を商業目的で輸出することを認めている唯一の国であり、これは、先住民が生活のために狩りを行っているからである」という。

 加えて、世界各地に多数生息するホッキョクグマの著しい減少は、ここ数年では無かったとしており、「気候変動による個体数の予想減少率は、今後40~50年でおよそ30パーセントと推定される」という。

 提言書では、「取引はホッキョクグマにとって重大な脅威にはならない」としている。

 トラフィックの提言書が出されたのと同時期に、ヌナブトにある、イヌイットの土地に対する権利の実現を求めている団体が、ワシントン条約締約国会議でアメリカの提案に反論するための情報収集を行っていた。

 ヌナヴト・トゥンガヴィク株式会社(Nunavut Tunngavik Inc.)ではイヌイットに対し、彼らの多くが抱える、自身の領域内でのホッキョクグマの増加に対する懸念を記録するため、フリーダイヤルのホットラインに電話するよう働きかけている。

 ヌナヴト・トゥンガヴィク会社のRaymond Ningeocheak副社長はCBCニュースの中で、トラフィックが禁止案を拒否したことを嬉しく思うが、ホッキョクグマを守ろうとしているイヌイットの人々の努力に対しもっと感謝の意を表してほしかったと語った。

 ヌナヴト・トゥンガヴィク会社には捕獲割当システムを盛り込んだホッキョクグマの管理システムがあると、Ningeocheak氏はイヌクティトゥト語で述べた。

 同氏はまた、イヌイットはホッキョクグマの数の減少ではなく増加を見守ってきたので、ホッキョクグマをめぐる国際論議には困惑していると述べた。
(翻訳協力 松村理沙)

【JTEFのコメント】
 2010年3月13日に開会したワシントン条約(カタール・ドーハ)に提案された、ホッキョクグマを附属書ⅡからⅠへ移行し、国際商業取引を禁止する提案についての記事です。結果は、否決。もはや伝統的利用と言ってよいのか疑問もあるところですが、原産国カナダによるイヌイットの毛皮や剥製の取引継続の主張と、国際商業取引がホッキョクグマ危機の原因ではないという専門機関の評価が会議場でも強く主張されたようです。
 しかし、忘れてはならないのは、一般的に、様々な要因が複合的にはたらいて野生生物の危機がもたらされているということです。温暖化の進行をすぐに止めることはできないが、できること(取引禁止)からやっていくという発想も、手遅れにならないために重要な発想だと思います。

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