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セレンゲティの道路、建設中止

mongabay.com、2011年06月23日

タンザニア政府は、セレンゲティ国立公園の北側を通過する予定だった商用道路の建設を中止した。自然保護活動家、科学者、観光業、そして地上最大の大移動する動物たちの勝利である。科学者たちによると、もしこの道路が完成していれば、150万頭のヌーと50万頭のその他のレイヨウやシマウマからなる大移動のルートが遮断され、セレンゲティ平原の生態系全体に影響が及んだだろうという。

「政党は、提案されている道路がセレンゲティ国立公園を分断することなく、したがって大移動やこれら自然界の財産の保護されるべき価値に影響を及ぼさないことを確約する」と、タンザニア天然資源観光省の声明には明記されている。ただし、公園の境界線までの区間では舗装道路が建設される。それでもセレンゲティ内の道路は砂利敷きのまま残され、観光や管理目的で使用されることになる。

最近の科学研究によれば、計画されていた道路の直接の影響でヌーの群れが3分の1以上(50万頭以上)減少したうえ、密猟や新たな開発といった間接的な影響により状況が悪化しただろうという。

「タンザニア政府が道路の建設を中止したのは賢明で、思慮深い決定でした」と、前述の研究をまとめたひとりであるアンドリュー・ドブソン氏は当社に語った。「これで、セレンゲティの生態系と世界的に有名なヌーの大移動の存続が保証されるでしょう。同時に、セレンゲティの東側に住む住民にインフラを提供することもできます。タンザニアにとっては、21世紀の経済的成功には天然資源の保護と経済開発のバランスが重要だということを例証し、優れたリーダーシップを他のアフリカ諸国に示す機会でもあります」

匿名で明かされた政府による環境への影響調査の結果も大筋ではドブソンの研究と一致するもので、道路はセレンゲティの大移動を「制限」し、獲物の減少により肉食動物(ライオン、ハイエナ、チーター、ヒョウ、ワニなど)の生息数にも悪影響を及ぼしただろうと結論付けている。

政府のレポートでは、2015年までには1日に800台の車が、公園内に予定されていた30マイル(50キロメートル)の区間を走行するようになると予測されていた。2035年までには1日当たりの車両数は3000台に達し、年間100万台を超えることが見込まれている。この地域の自然保護活動家と研究者たちは、当社の取材に対して、これらは控えめな数字だと述べた。

自然保護活動家たちは1年以上前から、この道路はいずれ象徴的な大移動を終息させ、タンザニアの観光業に大打撃を与え、地球上に残されている最後の壮観な野生生物の営みのひとつに幕を下ろすことになると警告してきた。各野生生物NGOは、トレーラーによってなぎ倒されるヌーを視覚化するなどして、道路の建設に徹底的に反対してきた。

とはいうものの、この道路について懸念を示したのは自然保護活動家たちだけではない。アメリカとドイツの両政府、それに国連も、道路建設計画に反対の意を表明してきた。世界銀行は公園を避けて通る迂回ルートに対して資金提供を申し出、ドイツ政府はセレンゲティ北部で孤立している人々のための一般道路に対して資金提供を提案した。広範囲に散らばった住民に交通手段を提供することが、タンザニア政府が道路の目的として挙げた理由であるが、多くの人々は、アフリカ内陸部の資源を沿岸部へ速く安く運ぶための商用道路として使うためにこの道路の建設が強力に後押しされたのではないかと疑っている。道路の建設中止を発表した声明の中で、タンザニアは、公園の南側を通る迂回ルートを検討中であると述べた。

「この戦いには勝ちましたが、セレンゲティを守るための闘争は続きます。公園の境界線までは道路が建設されることに変わりはありません。商業目的でのウガンダへの接続道路を含めて、セレンゲティへの重圧は変わらずに存在するのです。セレンゲティを横断する高速道路が提案されたのはこれで3回目ですし、今後も提案される可能性があります。でも今はとりあえず、私たちが成し遂げたことについて自分たちを褒めてやることにしましょう」と、NGO「セレンゲティ・ウォッチ」からの声明には書かれている。

自然保護活動家たちは、タンザニア政府のさまざまな計画についてますます警戒を強めている。セレンゲティの道路が大々的にマスコミに取り上げられる一方で、タンザニアは最近、世界で最も重要なレッサーフラミンゴ繁殖地であるナトロン湖でソーダ灰を掘る計画も発表している。一連の計画は2008年に、フラミンゴの繁殖を妨げるとして一度は放棄されたが、最近復活し、早期着工を目指している。世界中のレッサーフラミンゴの半分以上(65~75%)がこの湖ひとつで繁殖している。

とはいえ、ドブソン博士は、セレンゲティの生態系を守ったことで今はタンザニア政府の功労を称えるべきときだという。

「キクウェテ大統領と天然資源観光省のエゼキアル・マイゲ大臣は、複数の国内および国際団体から非常に難しい決断をするようプレッシャーを受けながらも賢明で前向きな決定を下したことで、タンザニア全国民と世界中から称賛を受ける資格があります」と、ドブソン氏は言った。「彼らは、アフリカのすべての国に未来への道筋を示す優れたリーダーシップを発揮したのです」
(翻訳協力 木田直子)

【JTEFのコメント】
タンザニアはケニアと隣接している国ではありますが、自然保護を前面に打ち出しているケニアとは少し違ったスタンスに立っています。備蓄されている象牙を放出するという提案をワシントン条約会議でも出しています。だから、この工事中止のニュースは、英断を下したと言えます。しかし、開発とそれを止める保護活動はもぐら叩きゲームのようです。良く目を光らせていないと、気づかない場所で新たな問題がおこってしまいます。もぐらをたたき続けないと環境を守ることはできません。


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