北東インド(カルビ・アングロン)ゾウ保全プロジェクト
【プロジェクトの背景】
野生のアジアゾウは、アジアの13カ国に約4万頭生息しているといわれています。そのおよそ3分の2である約2万5千頭がインドで暮らしています。インドの面積(330万k㎡)は世界第7位を誇りますが、インド政府によれば、ゾウの生息地は、最大で、国土の30分の1である11万平方キロメートル前後、一番生息地が集中しているのが北東インドの4万平方キロメートル前後となっています(僅差で南インドが続きます)。また、北東インドはインドの中でももっとも生物相が豊かで、生物多様性保全の観点から見て、世界的にもっとも重要な地域の1つといわれています。
この地域には、ヒンズー教の創造神ブラフマーの名にちなんだブラフマプトラ川が東西に流れます。その南側の氾濫原に位置するカジランガ国立公園には、「エレファント・グラス」と呼ばれるイネ科植物などが生い茂る草地、いたるところに散らばる浅い沼、常緑樹林がモザイクのように広がり、アジアゾウ、インドサイ、アジアスイギュウ、トラといったアジア最大の野生動物をはじめ多様な動物たちの楽園となってきました。カジランガの南側には北東丘陵の森が広がります。カルビ・アングロン丘陵は、この北東丘陵の入口としての位置にあり、洪水の時期には動物の避難場所にもなります。その面積は、約1万平方キロメートルで、うち8000平方キロメートルが森林に覆われています。
北東丘陵の森林は、南のインタンキ国立公園につながり、さらにずっと南のダンパ・トラ保護区、ブルーマウンテン国立公園まで広がっています。(季節的には特に)広範囲を移動するゾウにとって、このまとまった森林の存在はとても重要です。
このカルビ・アングロン丘陵の大部分は、先住民による自治区(カルビ・アングロン自治区)が管理しています。近年、自治区は、生物多様性の保全を軸にした地域作りに眼を向け、本格的な保護地域の整備や保全対策に意欲を示していました。そこで、自治区(森林局)、WTI、JTEFが協働して、「カルビ・アングロンゾウ保全プロジェクト」を実施することになりました。
【プロジェクトの内容】
1.パトロール技術などのトレーニングと必要な装備の提供
広大な森で科学的調査のためのフィールドワークや、野生生物犯罪取締りに従事するのはアソム州(カルビ・アングロン自治区)森林局レンジャーです。レンジャーたちは、専門的技術を高めるためのトレーニングを必要としています。また、自身のパトロールに必要な装備の支給も必要です。
2.ゾウと人との間のトラブルを減少させる対策
森林の切れ目に位置する農村でゾウによる人身被害や農作物被害が発生しています。ゾウの保全を組み込んだ地域づくりを進めるには、このトラブルを減少させ、人々の理解を得る必要があります。普及啓発のほか、特に被害の著しい地区で、トラブルの実態やどのような対策が効果的なのか、地域ぐるみで検討し、「地域主導プロジェクト」として対策を実施していきます。具体的には、電気策を農地周辺に設置し、ゾウの侵入を防ぐ取り組みが行われています。
>人とゾウのトラブルを防ぐための地域主導プロジェクト(PDF)
3.ゾウの移動ルート・保全活動ホットスポット調査
人間とゾウの「共存」のための究極的な課題。それは、ゾウが生息域の土地をどのように使っているか等の科学的情報を踏まえて、人間の土地利用計画をどのように調整していくかということに行き着きます。現在トラブル発生が多い場所や、ゾウにとって重要である一方農地開発の候補になっている場所などにおいては、とりわけ慎重な対応が求められます。
そこで、カルビ・アングロン自治区内のできるだけ全域にわたって、ゾウの保全に関係する生態学的データ、特にどのような群れがどのルートを使って移動しているのかを把握します。また、それぞれの村で起こっている被害の防止や森林管理の計画に役立つ情報を収集します。