南インド・トラ生息状況調査プロジェクト
【プロジェクトの背景】
サティアマンガラムは、インド南東のタミルナドゥ州北側中央部に位置する、森林です。インドの中でも有数の生物多様性を誇る2つの地域、西ガーツ地域と東ガーツ地域が"V"の字型に交叉する場所に位置し、ひとつながりの広大な森林地帯の一画をなしています。
絶滅危惧種であるゾウ、ガウル(野生のウシ)、トラ、ヒョウ、シマハイエナ、ドール、ナマケグマ、ブラックバック、チョウシンガ(4本角の小型アンテロープ)、セジロハゲワシ、インドハゲワシなどのほか、ベンガルヤマネコ、ムササビ、サンバージカ、アキシスジカ、ホエジカなど様々な野生動物が生息しています。また、ショウガ、ターメリック、ナス科植物、マンゴーなど栽培植物の原種のふるさとでもあります。
インドの州政府は森林を所有・管理し、それぞれの森林局が、森林管理のためにいくつもの森林区を設定していますが、サティアマンガラムは、その森林区の名称でもあります(「サティアマンガラム森林区」)。その一部は、「サティアマンガラム野生生物保護区」にも指定されています。サティアマンガラム森林区は、バンディプール・トラ保護区、ムドゥマライ・トラ保護区、ビルギリ・ランガサミ・テンプル野生生物保護区と隣り合っています。
20世紀の終わり頃、強力に武装した山賊が森林を事実上支配していたため、森林管理が困難となり、薪炭材取引のための伐採、森林内での家畜の囲い込みが横行しました。そのため、タミルナドゥ州のトラの生息地は打撃を受け、サティアマンガラムからトラが消失していました。しかし、2004年に山賊の首領が死亡した後は、森林局による森林管理が再開され、森林内の家畜用の囲いは一掃され、トラが戻ってくるようになりました。2010年に、細胞分子生物学研究所、WTI、WWFによる調査で、サティアマンガラム野生生物保護区には18-19頭のトラがいることが推定されました。この重要な区域とトラを未来に残していくためには、野生生物保護区を含むサティアマンガラム森林区全体をトラ保護区(Tiger Reserve)に指定し、保護を強化する必要があります。幸い、2010年にサティアマンガラム・トラ保護区を設定することが決まりました。しかし、トラの詳しい生息状況や獲物となる動物の状況は未だ何もわかっていません。
【プロジェクトの内容】
トラ保護区に指定されることになったサティアマンガラム森林区におけるトラとその獲物となる動物の生息状況を科学的に調査します。得られた調査結果は、今後のトラ保護区管理の基礎データとなります。たとえば、トラの占有状況から保護区のコアとして保護すべき区域を特定できます。また、調査にあたって収集される、どの区域にどの程度の人為的な圧力が及んでいるかについてのデータは、各区域でとられるべき対策の根拠にもなります。