イリオモテヤマネコ生息地支援
土肥昭夫さんのメッセージ
(生息地保全調査委員会委員長/元長崎大学教授(動物生態学))
イリオモテヤマネコは地球上で唯一、西表島のみに生息する希少な野生ネコです。約20万年前に大陸から隔離されて以来、面積わずか289km2の小島でイリオモテヤマネコが生き延びてきたのは、進化史上奇跡としか言いようがありません。西表島には独特な進化を遂げたイリオモテヤマネコをはじめとする世界的に貴重な生態系が存在します。私たちは1985年以来イリオモテヤマネコの生態学的研究を続けていますが、近年、人の開発による生態系撹乱は留まることを知らず、イリオモテヤマネコが減少傾向にあるのをまのあたりにしています。イリオモテヤマネコの絶滅を回避するにはその生息地の保全が最重要です。そこで、私たちはこれまでの研究成果を最大限活かし、この貴重な生態系・自然環境をヤマネコと人とが共生しつつ後世まで保全する道を拓くため調査委員会を立ち上げました。ヤマネコと人との未来のためのこの活動には、西表島民をはじめ国内外の多くの人々のご理解とご協力が必要です。皆様の暖かいご支援をイリオモテヤマネコに代わりまして心よりお願いいたします。
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JTEF担当者からの一言:戸川久美
イリオモテヤマネコの保護活動を始めるにあたり、亡くなった父、戸川幸夫(動物作家)が作っていたスクラップブックを持ち出しました。新聞掲載されたヤマネコ関連の父の記事やコメントです。父たちによってイリオモテヤマネコが発見されたのが1965年ですから、このヤマネコのスクラップはその前年から始まっています。戦前の西表島はマラリアが蔓延していたジャングルでしたから、原始の姿のままでヤマネコも生き残れていたのでしょう。戦後マラリアはもちろん撲滅しましたが、父はヒルにかまれながらサソリや毒グモのいるジャングルを歩き回る厳しいヤマネコ調査を何度も試みました。今もイリオモテヤマネコが、この小さい島に生き続けてくれていることは、まだ豊かな自然が残されているということです。秘境の美しさ、そこにいる人々の人情に惹かれる父は、多くの新聞記事の中で「開発かヤマネコの保護か、という二者択一ではなく、人々とイリオモテヤマネコとが共存できることをめざすべきではなかろうか。本土とは違うここだけの持つ美しさ。良さ。詩情をいつまでも失わないでほしい。イリオモテヤマネコを守ることは、それらの魅力を支え、島の生活を豊かにすることにもつながると思う。」と述べていました。
ヤマネコの生活圏が人と重なっているため、交通事故で死んでしまうネコも増えています。環境省の野生生物保護センターが事故防止のネットを張ったり、スピードを出さないよう呼びかけたりしています。ヤマネコの十分な生息場所の確保と交通事故対策こそ、イリオモテヤマネコ保護の最重要課題です。
わずか100頭のイリオモテヤマネコがここだけに生息している美しい島、西表島。都会とは違う不便さを楽しめる美しい島、西表島。
都会から持ち込まれる大規模なリゾート開発などによって西表島の自然が壊されることの無いよう、自然と共存する地元の人たちが潤い喜べる島を目指し、イリオモテヤマネコ保護基金もお手伝いをしていきたいと思っています。
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JTEF担当者からの一言:坂元雅行
イリオモテヤマネコ発見の後、西表島の開発による生活向上を望む島民がヤマネコ保護に反発、「人かヤマネコか」の論争が起きました。実際にそこで暮らす人々と、何十万年と続いた島の環境の安定だけが頼りのヤマネコが土地を分け合っている、その実態は今もそして未来も変わることはありません。「可能な限り早期の」「最高の情報に基づいた」「誠実な」合意形成。これは、対立する人たちがうまくやっていくための智恵ですが、人間社会と野生のいきものの世界の共存に向けた方策でもあるでしょう。結局は、生物多様性が生活の基盤となっている西表島の人々がヤマネコの守り手です。そうであることを誇れるような納得の合意形成。そのお手伝いができればと願っています。> 戻る