講演録
講演:生物多様性保全のためのCSR(企業の社会的責任)の取組み:インドにおける事例
2012年9月27日(木) 於:地球環境パートナーシッププラザ・セミナースペース
バンダナ・キドワイVandana Kidwai(インド野生生物トラスト事務局長補佐、開発室長、企画調整グループ・メンバー)
インド野生生物トラスト(WTI)での業務歴
・個人や企業に対して生物多様性を保全することの重要な意義を普及啓発し、生息地における保全活動に対する支援を獲得するためのチャリティー活動を行うチームを率いる。
・インドの大企業に対して、生物多様性を保全するための課題をビジネスモデルに採り入れるよう働きかけるプロジェクトを推進している。
・2011年に開発室を立ち上げ、WTIの支援組織・支援者(共同プロジェクトのパートナーや資金提供者。(トラ・ゾウ保護基金(JTEF)もそのひとつ)との関係を改善・発展させる下地作りを行なう。
・企画調整グループのメンバーとして、現場の保全活動管理に企業効率性の考え方を導入した。
*インド野生生物トラスト(Wildlife Trust of India:WTI)
WTIは、1998年にインドの人々が設立したNGOで、インドの首都デリーに本部をおく。インドの野生生物、特に絶滅のおそれのある種とその危機に瀕する生息地を、地域コミュニティー(住民)と政府との協働により保全することを使命とする。スタッフは国内各地域に常駐するスタッフも入れると100名を超える。野生動物の研究者、獣医、法律家などの専門家も含み、インドの野生生物保全のために革新的・先駆的な取組みを目指している。
キドワイ氏職歴
Deputy Practice Head, TATA Interactive Systems (TATA Group)
*TATA Interactive Systemsは、企業、政府機関、教育機関に対する教育システム提供を事業とする会社(TATAグループ)
*TATAグループは、インド発祥の時価総額760億米ドルの多業種コングロマリット(企業複合体)
*Practice Headは、会社の取引能力向上と成長戦略を生むための中心的な役割を担う役職。
Client Relationship Manager, Hewlett Packard
Regional Head (Resource Mobilization), Child Rights and You
*CRYは、子どもの権利擁護活動を行なうNPO
Assistant Manager, ITC Classics (ITC Group)
*ITC Classicsは、観光旅行業を目的とするインドの会社
*ITCグループは、インド発祥の時価総額330億米ドルの多業種コングロマリット
キドワイ氏学歴
学士:Arts , Political Studies and Economics
修士: MBA (Masters of Business Administration)
今日は、二つのパートに分けてお話します。最初に、簡単にインドでどのような保全活動がされているかをご紹介します。第2パートでは、インド企業によるCSRの試み、それが生物多様性の保全にどのようにかかわっているかをお話したいと思います。
インドにおける野生生物保全と生物多様性保全の活動
インドは、全世界の陸地面積と比較すると、2.4%と非常に少ない面積を占めるにすぎません。この配布資料にもございますが、インドはこれだけの陸地面積にもかかわらず、非常に生物の多様性に富んだ国です。5つの世界自然遺産を擁していますし、世界でもっとも重要視されている湿地の16があります。そして、ホットスポットが2つあります。ホットスポットというのは、コンサベーション・インターナショナルという団体が世界で25か所選定していますが、実にそのうちの2つがインドにあるのです。インドでは、この広い国土の中を10の生物地理区に分けていまして、このまったく環境の異なる地理区が多様な生き物を支えているわけです。もし、10の地理区のうちどれかがだめになってしまうと、それは生物の絶滅を加速することになります。
インドには、フラッグシップと言われる3つの種が生息しています。アジアゾウ、トラ、そしてインドサイ(日本語ではインドサイだが、英語ではイッカクサイ)です。これらのシンボリックな生き物たちが生息しているというのは、その背景に実に多様な各分類群の生物が生息していることを意味しています。鳥、両生類、爬虫類、魚類、無脊椎動物、植物、これだけのものをこれら3つのフラッグシップとなる動物が象徴して、豊かなインドの生物多様性があるということです。
しかし、トラはこの100年間で97%が失われてしまいました。トラは、インドの「国の動物」に指定されていますが、現在は1700頭余りが残されているだけです。また、ゾウは国の「国家遺産動物」に指定されておりますが、やはり脅威にさらされています。
野生のゾウをとりまく問題
野生のゾウは社会的な動物で、群れで生活しておりますけれども、その群れは10~15頭になります。ゾウは、植物食の動物で、一日の大半を食べて移動することに費やしています。ある場所からある場所へ移動するのに、ゾウは決まった道筋を使います。そして、そこを群れで移動していくわけです。ゾウに及んでいる脅威ですが、一つは密猟です。象牙を始め、皮や肉を取る目的でゾウが殺されます。二番目の問題は、生息地の分断です。広い森で育つゾウですが、その森が細切れのように分断されていきます。そうなると、生息地間を結ぶ渡り廊下状の土地である「コリドー(渡り廊下)」を使って森から森へと移動することができなくなってきます。ゾウがある場所からある場所へと移動する途中に、人々の村、建物や田畑などがあると、人とゾウの衝突が起きます。また、森が分断されて棲む森がどんどん縮小していくと、そこから一歩出るとそこは人が住んでいる、また利用している場所となりますので、そういう状況でもトラブルが起きることになります。その結果、ゾウが100頭くらい、人も相当数が毎年殺されています。人々は、ゾウに農作物を荒らされるとそれに復讐するということで、毒殺などをするのです。
ゾウのコリドーを確保するために
こういう状況に対してWTIは何かのアクションを起こさなければなりません。トラ・ゾウ保護基金と協力してやっているプロジェクトについてお話します。
まず、先ほどお話したコリドーの確保についてですが、これは、ゾウがある場所からある場所に移動するときに起きてしまう衝突を減らすためにも、コリドーの確保は非常に重要です。ゾウが安全に森へ戻れるようにするために、このコリドーを確保すれば、衝突も最小限に抑えられます。コリドーを確保する方法ですが、一番根本的な方法は、コリドーの中に住んでしまっている人々、村を移動することです。実際、インドで行われていますが、非常にコストがかかります。代わりの土地を購入しなければなりませんので、効果はあるがなかなか難しいところです。
森林監視官への支援
インドでもいくつもの保護区が設定されていて、森林局の森林監視官が密猟防止のためのパトロールを行っています。しかし、その森林監視官たちは必ずしも十分訓練されているわけではありません。パトロールの技術、方法もそうですが、法律の知識、その法律にしたがって最終的に密猟者を裁判所に起訴するところまでに持っていくための知識や技術が不足しています。そこで、この森林監視官たちを訓練して、パトロールのための装備も提供します。装備は、鉄砲とかいうことではなく、レインコートなど毎日のパトロールに必要なものを提供していきます。
野生動物の救護活動
北東インド(アソム州)でのことですが、人によって傷つけられたり、傷ついたまま放置されている野生動物を救護して、必要な手当てをリハビリセンターで行い野生に復帰させる活動も行っています。目的は、あくまでも野生に戻すことです。
人とゾウが共存するための活動
先ほどのゾウと人との衝突の予防策として、ゾウが田畑に入ってこないように電気柵を田畑に設置します。それでも穀物に被害を受けてしまった場合は、農家の人に穀物をもって被害を補償する活動をしています。また、ゾウによって死傷者が出た場合にも任意の義援金として、保証するプログラムも行っています。
地域コミュニティに対する活動もしています。地域コミュニティの人々は、日常の暮らしを森に依存しています。その過剰な依存を少なくするために、地域コミュニティの人に協力する活動も行っています。
列車によるゾウの轢死事故も深刻な問題で、それを防ぐための活動も行っています。ゾウが森から森へ移動するところに線路がある場合があります。ゾウの出やすい場所について、列車の運転士達に十分に知らせて、ゾウを避けるためのトレーニングを行います。また、ゾウが出やすい場所には注意看板を立て、その場所に到達した時にはスピードを落とすようにアドヴァイスしています。
政策提言、国際組織への働きかけ
最後に、政策提言の活動です。森林のある豊かな州政府などに保全活動を働きかける活動をしたり、絶滅危惧種の国際取引を規制しているCITES(ワシントン条約)や、グローバル・タイガーフォーラム(トラを保全するためにトラの生息する国が集まっているグループ)といった国際組織に対して政策提言をしています。
今、お話したような活動には非常にお金がかかります。そういうことから、NGOも企業の社会的な責任に目を向けて、企業がこうした活動にお金を出していくという状況を作る活動をしています。インドの経済成長はここ最近急激に成長をしています。その意味で、インドの企業は現在変化をしていて、CSRというのもインドでは新しい課題になっています。そのことをお話するのに先立って、インドのCSRの歴史を振り返ってみたいと思います。
インドにおける企業活動とCSRの歴史
1930~50年代の間は倫理的モデルの時期と呼ぶことができます。当時のインドは自由を求めてもがいていた時代です。インドの企業はガンジーの影響を受けて、企業は社会の受託者であるべきだという考えに立っていました。この考えのもとファミリー企業がたくさんでき、それが国全体の社会経済の発展に貢献しようという理念をもってビジネスを起こしていきました。彼らを動かしていた理由というのは、宗教的なものもありましたし、個人的に社会に貢献したいというものもありました。こうしたことを通じて、社会自体も成長していくと彼らは信じていました。
1950~70年代は国家統制的なモデルと呼ぶことができます。インドは独立後に鎖国的な政策を取ったために、世界の経済からは分離した形でインドの経済は発展していかなくてはなりませんでした。それは、インドの企業だけで、インドの中で経済を動かすわけですから、インド企業自体が生産を強化していかなければならなかったわけです。この状況の中で、政府が企業に一定の社会的な責任を果たすべきだという強制をしました。その方法としては、もともとそのような目的を含んだ公営企業を作ったり、あるいは法律によって強制するものでした。また、高い税金を企業は課されました。そのことを通じて、その当時のCSRが実践されていたわけです。このように、高いコストにさらされながらもインドの企業は成長していきました。
1970~90年代は、自由主義的モデルということができます。この時期、企業は高い収益性を求めて、実際に成果もあげていました。ただ、企業は税金を払うことが基本的には企業の社会的責任を果たすというスタンスに立っていて、企業の中にはチャリティにお金をだし、社会的貢献を積極的にするところもありましたが、それはあくまでそれぞれの企業の志向に過ぎない、企業のトップの考え方に過ぎない、つまり個人的な理由によるものでした。
1990年代から現在に至るまでの状況ですが、インドの企業は成長していき、収益性の追求と、社会的責任の両方を考える状況になってきました。三重の純損益というアプローチが提案されるようになりました。三重というのは収益と人、環境を意味します。この三つのそれぞれの純損益が結果、実績を出してこそ、企業の目的が達成されると考えられるようになったのです。
近年のグローバリゼーションがインド企業のCSRの姿勢には大きな影響を与えています。国境を超えた取引や多国籍企業の出現がCSRに対する意識を増大させています。そこでは、透明性や説明責任が強く求められます。それは、従業員に対するものであったり、それ以外の企業にとってのステークホルダーに向けられたものです。企業にとっての地球規模の焦点は、一つは人的資源管理の実践、そして環境保護、健康及び安全、そして加えるならコンプライアンス(法的な遵守)となっています。地域レベルの焦点は、基本的には人に置かれています。インドは貧富の格差が非常に大きな国です。そういうことで、企業の焦点は主に地域コミュニティの発展や、そこに暮らす子どもの権利に向いていきます。
現在のインド企業のCSRは、基本的にビジネス主導です。この傾向は、地球上の他の地域と同じなのですが、あくまでビジネス、利潤を上げることがCSRを引っ張っているわけです。たとえば、水に関係する企業は水の保全に投資を行いますし、地域コミュニティに積極的に投資する企業は、工場が立地している場所の周辺の地域コミュニティに狙いを定めて、そこに協力をしているわけです。それから、将来のマーケット拡大を見込んでいる企業は、子どもの教育をCSRの焦点にします。そうすることで、その子どもたちが自社の製品を買うような消費マインドを持って成長することを考えています。将来の購買者層の開拓というわけです。つまり、企業のCSR活動は市場と消費者を向いて、ビジネスが主導しているわけです。
インドにおけるビジネス主導型のCSR活動
このビジネス主導のCSRの一つの例をお話します。
ペプシの例
2003年に飲料水メーカーのペプシが、その工場の活動のために水を過剰に利用したために、地域の人たちの飲料水が不足するという事件が起きました。それでもペプシは住民の声に耳を傾けなかったため、ついに訴訟が起きて、その訴訟の結果、ペプシは営業免許が取り消されることとなりました。この状況を受けて、ペプシはCSR活動として多額の資金を水資源の確保に投入しました。その結果、水の需給バランスが良好になりました。しかし、ここで注意しなければならないのは、ペプシがこの素晴らしいCSR活動を最初からやっていたわけではないということです。訴訟で営業免許を取り消されて初めて、そのような行動に出たということです。ですから、ペプシやコカコーラといった水関係の会社が野生生物の保全を目的としたNGOに協力を働きかけてきたときは、水利用のプロジェクトでどんなものがあるか考えなければならないということです。
ブリタニアの例
もう一つの例ですが、ブリタニアという会社があります。ミルクやチーズ、ビスケットなどの食品や生活用品を製造している会社ですが、ここは地方の栄養失調に苦しむ子供たちに対する支援を行いました。この会社の利益の数%を栄養失調の問題に取り組む団体に寄付をするわけです。また、ブリタニアが製造する食品は、こういうことも考えてビタミンなどの必要な栄養素が十分に入ったものを作って販売しています。
TATA製鉄の例
ジャームシェドプールというTATA製鉄がつくった企業城下町があります。トヨタも同じように城下町を持っているそうですが、同じものですね。このTATAもジャームシェドプールとその周辺地域において、CSR活動を積極的に展開しています。
公共部門の例
次に公共部門、政府が運営する公社などにおけるCSRですが、こうした政府系の公社では、利潤の大きな公社では2%を使うことが義務付けられています。これは、いろいろな分野に資金を使っても良いことになっているので、野生生物の保全ないし生物多様性の保全という分野にも貢献することができます。
企業は利潤から出発して、CSR活動が人に向いてきたわけですが、国際的な状況が変化して環境へと目が向いてきたことによって、CSR活動は環境へと向っていくことになりました。企業は資源を持続可能な方法で利用していかなければならないということになってきました。基本的には、やはりビジネス主導ではあるけれども、環境もCSRの対象に考えていかなくてはならないという状況になってきました。しかしながら、政府も政策として企業に対してこうした分野へのCSR活動を義務付けるということはしていませんし、積極的に促すこともしていません。企業の方も、まだまだ進んで環境に向けたCSR活動に積極的というわけではありません。
インド企業によるCSR活動の事例
ここで、人と地球と両方に焦点をあててCSR活動をしている例をご紹介します。ITCグループです。
ITCグループの例
このグループは食品、製紙、ホテル経営など多角的経営をしているグループ企業で、時価総額が330億ドル、株主利益率が最近の15年で年間26%という非常に収益性の高い会社です。雇用も2万6千人を雇用しています。このITCがやっていることですが、500万人の生計手段を創出しています。その方法として非常に注目されるものの一つに、電子集会所があります。「E-チョーパル」といいます。チョーパルというのはヒンディー語で、人が集まるオープンな場所という意味です。これは、地方の農家がインターネットを通じてつながる、そういうシステムを整えるものです。彼らがキオスク、田舎のちょっとしたお店に行って、パソコンを操作し、どこの市場に出荷するのが一番利益になるのか、また季節に合わせた農法を探して自分の農作物をもっとも効率よく、高く出荷できるようにしたシステムです。このシステムにより、中間業者によって搾取されることが非常に少なくなり、農家の人々の収入アップに非常に貢献しています。
2番目の方法ですが、社会的農林業イニシアチブと言われているものがあります。これも、地方の農家などにパルプ材として使われる樹木を庭先に植林するように協力してもらう活動ですが、これによってのべ5600万人の雇用を創出し、12万5千ヘクタールを緑化することができたとされています。乾燥地帯には、流域開発をすることで7万4千ヘクタールですが、その人たちが水に困らない状況を作り出しました。
インフォシス社の例
持続可能性をビジネス全体に組み込むという、先進的な事例をご紹介します。 採り上げるのは、インフォシスというIT企業です。いったん海外に出た後、インドを発展させたいとインドに戻ったカリスマ起業家が興した会社で、インドのIT企業と経済成長を象徴する会社のひとつとなっています。インドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロールに本社があります。
インフォシス社の経営方針における目標は、持続可能な明日のための全世界レベルのベンチマークを設定することによって、より大きな公益のために活動する、高い信頼を得た一流のグローバル組織となることとされています。このインフォシス社は、「持続可能性モデル」を提示しています。「持続可能性モデル」は、ステークホルダーからの付託として、次の3つの持続可能性課題に取り組むとするものです。1つ目は、社会契約上の義務を果たすこと、つまり平等な社会を目指して活動するということです。2つ目は、資源効率の確保、つまり効率的な資源の消費を徹底することです。そして、3つ目は、顧客に対して環境に目覚めた消費行動をとれるような解決策を提供するものです。
このインフォシスのモデルが成功するために必要となるのは、まずフォーカスを定めることの重要性です。具体的には、企業にはマーケティングや資金調達といった様々なビジネス機能があります。それらをすべて横断するようなプロセスの中に、このモデルを組み込んでいくことが不可欠です。ボトムアップが必要となりますが、その前提として、企業のリーダーから働いている人たちに指示が出されなければなりません。また、すべてのステークホルダーの利益を考える必要があります。ステークホルダーのニーズを満たし、ステークホルダーも企業も利益を受ける形で進めていかなければなりません。忘れてはならないのは、従業員に対する継続的な訓練と補強策です。CSRのことを繰り返し従業員に徹底させなければならない。そして、その状況を監視する必要があります。
環境保全のCSR活動の難しさ
インド企業の歴史の中に萌芽のようなものもありましたし、いくつかのCSRの成功事例も見られるわけですが、依然としてCSRの中で生物多様性をテーマとすることは不十分で、満足とはいえません。これは、個人的な経験で感じていることですが、インドの企業をいくつも訪問していて言われることは、なぜ野生生物を保全するのか、なぜ生物多様性を保全することに我々が投資しなければならないのか、というものです。一方では貧しい人々が苦しんでいて、水の確保の問題や教育の問題もあるのに、なぜそちらに投資するのかについて理解を得ることは非常に難しいものです。企業の人にとって理解が難しいのは、生物多様性を保全するということと、人々の暮らしを確保するということが、実は深く結びついているということです。この点の理解を得ることが非常に難しい。そうした状況の背景には、メディアの存在が大きくあります。ひところは新聞に生物多様性や、森林のカバー率といった話が掲載されることはほとんどありませんでした。しかし、今では毎日のようにそうした記事が見られるようになり、人々も生物多様性の問題に目覚め、知るようになってきています。そういう意味で、メディアの役割は非常に大きなものがあります。
10月にインドで生物多様性条約の締約国会議が開催されます。そこでも話題になりますが、Leaders for Natureというイニシアチブがあります。これは、国際自然保護連合(ICNオランダ)のイニシアチブですが、そのもとに上級の管理者、中間管理職、そして下のレベルの管理者がそれぞれワークショップに参加し、企業の経営課題に生物多様性をどうやって組み込んでいくかを議論し、トレーニングを受けています。
それから、CSRの推進については政府の役割も非常に大きいものがあります。政府が企業に対してCSRの実践についてプレッシャーをかけるのです。その方法としては、課徴金をかける、税金を付加するといった方法があります。
NGOによる企業への働きかけ
われわれNGOが企業に働きかけて、そのCSR活動を通じて協力を求めるのに必要なことですが、まずその企業のニーズや経営方針を理解することから始まります。その上で、われわれのどのプロジェクトが企業が設定している経営方針、CSRの方針と一致するのかを見出していきます。たとえば、冒頭にお話したゾウなどの野生動物の通り道、森林コリドーの確保についてですが、その方法として二酸化炭素の排出権確保があります。その森林を確保すれば、二酸化炭素の排出義務を履行できたという扱いにするというスキームをその企業に関心を持って採用してもらうということもあります。
WTIが実際に企業から支援された例
WTIはたくさんの組織、基金から資金を調達していますが、インドの企業から支援を受けた例をいくつかご紹介します。
まず一つはTATA化学です。インドの西海岸に生息するジンベエザメの保全プロジェクトに支援をしてもらいました。また、携帯電話の通信事業をやっているAircelからは、トラの保全について資金提供を受けています。Aircelは、大規模な広報活動で、「Save the Tiger あと1411頭」という広告を非常にたくさんの看板などにし、たくさんの人の目に触れさせました。3番目は、ONGC(石油天然ガス公社)という政府が運営する企業ですが、ここはヌマジカというシカの一種の生息地保全のために資金提供をしました。
WTIでは、これからも積極的に企業に働きかけていこうと考えています。